僕と彼女の食卓は II ページ2
「それにしても、よくもこんなに続いたわねぇ」
皮肉を言うように彼女がグラスを揺らす。もちろんこれが彼女なりの挨拶代わりだと言うことは三年間の経験から理解している。彼女の皮肉は、裏を返せば愛情なのだ。僕を通して見た、彼女自信に対しての。
僕は適当に相槌を打って、フォークを手に取る。今日のおかずは見るからに切ったら肉汁が溢れ出しそうな肉の塊、否、ハンバーグにこれでもかと言うほどデミグラスソースが乗っけられていて、高密度に波線に引かれたチーズが彩りを加えていた。試しに真っ二つに切ってみると、肉汁はもちろんのこと、これまたたっぷりのチーズがどろどろのマグマのように溢れてきた。さっきも言ったように、いかにも美味しそうな絶景だったが、食欲は湧かない。仮にもしこれが本当に見た目に見合う味だろうと分かっていたならば、話は別だったのだが。
僕はまた彼女に茶化されないためにも、サイコロサイズに切った肉片を早々に口に運んだ。うん、ほとんど味はしないが、かと言って不味いわけでもない、空腹は満たせる。いつもの感覚だ。こうした動作の合間にも、彼女がぺらぺらと皮肉げにものを言うことの窮屈さを、僕は嫌と言うほど体感した。不快、嫌悪を覚えた頃から、ご飯が美味しくなくなった。彼女自身が作った美味しそうなご飯を、彼女自身の言葉と言う名の調味料で、彼女自身が味を打ち消していったのだ。無駄で無意義で無価値なその行為に、僕が何度か釘を刺さなかったわけがない。しかしその度に目の前の彼女は悲愴な顔を浮かべ、まるで僕が弱い者いじめでもしているような反応を見せてくるのだ。彼女は、僕を困らせることが大好きなようだった。そんな彼女に、離婚をしようなんて言い出せるわけがない。ヒステリックになって家でも荒らされてしまっては近所からの評判はがた落ちだ。実際、何度か暴れられたことがある。喧嘩は妙に絶えず、そのどれもが悪化してしまい、ご近所に住まうそれほど若くないお婆さんを何度巻き込ませてしまったか知らない。あの人のような年代になると、よほど他人にお節介をしたがるので、断ろうにも断れない。老人の良心ほど手強いものはない。と、前までは思っていたが、彼女を目の前にしてそれは無礼であったと僕は思う。
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作者名：app shiyama | 作成日時：2017年12月31日 12時
