僕と彼女の食卓は ページ1
『彼女はいったい誰を愛していると言うのだろう』
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本日三回目の結婚記念日だと言うのに、全くもってめでたいとは感じられない。彼女が腕によりをかけて作ったお祝い手料理はどれも美味しそうだと言うのに、全くもって期待の目で見ることは出来ない。なにせ、三年前から味覚が薄いのだ。それも、彼女と食事をともにする時に限って。
僕と彼女が婚姻届を提出したのは、さしてときめくような出来事を経た上での合意からではなく、お互いがお互いを自分の写し身として大切にしたかったからである。僕と彼女はあまりにも孤独で、あまりにも傷付き過ぎた。今よりも精神年齢が幼かった頃、自分が真人間だと信じて疑わず、はたかも自分が他人と同等、いやそれ以上の存在だと傲慢極まりない考えを他人に押し付けてきた僕達は、時間差でそのツケを払うことになった。言い換えるならそれはただの自業自得であり、この件において誰かを咎めるとしたら、それは僕達になる。それに気付いたのは、二十歳を過ぎて彼女と二回目の結婚記念日を控えた時だった。
だから僕は、彼女と離婚したかった。彼女の夫を辞めたかった。
「おめでとう」
「おめでとう」
カツンと軽くあて合ったグラスの中の赤ワインが上品に揺れる。僕がしばらく余波を残している液体をぼんやり眺めていると、視界の隅で彼女はこちらを見ていた。
顔を上げ、僕は「なに？」と辛辣にそう聞いて彼女に焦点を当てる。すると彼女は「いいえ」と言ってワインを一口含んだ。それを見て僕も思い出したようにグラスを口のところに持ってくる。正直、彼女の前でアルコールを摂取したくは無かった。酔って口が滑ってしまうことだけは避けたい。数滴分だけ飲むと「ずいぶん口が小さいわね」とからかわれてしまった。少し苛立ちを覚えた。
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作者名：app shiyama | 作成日時：2017年12月31日 12時
