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「え？なにが？」
『見て』
「どれ？…うわぁ、デカぁ」
『ね』
取り出し口からお茶を引き出して野田くんの声がする方へ向くと
色濃ゆく綺麗な黄色で彩られた、大きくてまん丸の月。
「背中向けて歩いてたから分からなかった」
『ね。そうか今日満月の日か』
「私ちゃんと満月見るの久しぶりかも」
『俺も』
ブラックコーヒーをちびちび飲む野田くんの横で、同じようにちびちびとお茶を飲む私。
特別言葉を交わすわけでもなく、夜風を感じて月を眺める時間がただただ心地良い。
そう思えるのはきっと、いや間違いなく
隣にいるのが野田くんだからだ。
改めてそう実感した矢先に
『あぁーもうなんか、あれだな』
「ん？」
『あのー、月が綺麗だなぁほんと』
惚けたような口調でそう言い放つ彼の真っ赤に染まった耳を、自販機の光が照らした。
何度も言うように、普段の私はとかく恋愛に疎い。
けれどもどういうわけか、今日に限っては彼の言葉の意味をすぐに理解することができた。
「野田くん」
『…なに』
「意味わかって言ってる？」
『そりゃ、まあ』
「だとしたら下手くそすぎるって」
『いや俺も思ったけどさ』
やってしまったと言わんばかりに落ち込む横顔はなんだか子犬みたいでついつい笑ってしまう。
そんな彼がぶっきらぼうに伝えてくれた温かい愛情への答えなんて、もちろんひとつしかない。
「けどね、野田くん」
ずっと前から月は綺麗だよ？
できるだけ照れ臭さを悟られないように、満月の方を見ながら私なりの返事をすると
同じく月を見ていたはずの野田くんがこちらを向いた気がして。
チラリと視線を向ければ、口を小さく開いてキョトンとした顔の彼と目が合った。
『…それは、どっち？』
「知らないんかい」
『"死んでもいい"しか知らなかった』
「あぁーそっちか、そっちだね」
『ちょっとAちゃんまじ頼むわ』
「野田くんだってOKの返事しか知らなかったじゃん」
『100か0かの時0のこと考えないから』
せっかく恋人同士になったというのに、甘い雰囲気どころか小競り合い。
けれどもすぐに「ま、背伸びなんてするもんじゃないね」と笑い合えるのが私たち。
『はぁ。帰りますか』
「うん、帰ろう」
当たり前のようにそっと差し出された右手におずおずと触れればキュッと握り返されて、また心がぽかぽかと温かくなった。
-end-
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ちぃ(プロフ) - コメント失礼します！浦井さんのお話とてもほっこりするものびかりでとても温かい気持ちになりました！更新楽しみにしています！ (2022年12月22日 23時) (
レス) id: 3eae98f2f6 (このIDを非表示/違反報告)
musubi.(プロフ) - usaさん» なんとも心に染み入るコメントをありがとうございます。度がつくほどの不定期更新ではありますが、また是非にふらりと読みにきてくださると嬉しいです！ (2022年10月14日 18時) (レス) id: 7d1ad8f3cb (このIDを非表示/違反報告)
usa(プロフ) - 平井さん、浦井さんのお話が大好きです！更新ありがとうございます。綺麗な文章で好きです、引き続き楽しみにしております。 (2022年10月14日 0時) (レス) id: 2f04b706fb (このIDを非表示/違反報告)
musubi.(プロフ) - とこさん» 読みにきてくださりありがとうございます〜！スルメの如く、是非にたくさん噛み締めて味わってもらえたら嬉しいです！！笑 (2022年6月17日 16時) (レス) id: 7d1ad8f3cb (このIDを非表示/違反報告)
とこ(プロフ) - 平井さんのお話も最高です！なんて可愛らしいカップルなんですか…！あと5回は読みにきます！笑 (2022年6月16日 20時) (レス) @page15 id: 77b7f833c8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：musubi. | 作成日時：2021年9月17日 1時
