琺瑯ケトルが鳴く頃(S.Nomura) ページ4
『ん…。』
「あ、起きた？おはよ。」
数日ぶりの彼女の柔らかな声が耳に届く。
は？オハヨウ？？
重たい頭を上げて時間を確認すると
AM7:23
ふんわりと肩に掛かった、彼女がかけてくれたであろうチェック柄のブランケット。
目の前にあるパソコンの画面に映し出されるのは
余白の多い、書きかけの台本。
予定の半分にも満たないペースのところで
無常にも、意識を失ってしまったらしい。
『はぁーあかん、寝てもたわ。』
ガクッと項垂れる俺に近寄り、「大丈夫？」と片手で頭をわさっと撫でてきたAにろくな返事もできず。
突っ伏したままの俺を見て、くすくすと楽しげに笑うA。
「最近まともに寝られてないんじゃない？」
『まあな、締め切り近いし。』
「そっか…。お腹は？」
『空いてない』
「コーヒーは？」
『あ、ほしいかも』
「ん。ちょっとまってて」
社会人のAと芸人である俺の生活リズムが揃うことは滅多になく。
少しでも近くに居れたら、と同棲を提案したのは俺。
それでもやっぱり寂しい思いをさせてる自覚はあるし、俺の前では一切口にはせえへんけど、年齢的に、結婚だってしたいと思ってるはず。
こんな、良い歳してその日暮らししてるような俺に
いつまでついてきてくれるやろうか。
あかんあかん、ぼーっとしたら
余計なこと考えてまう。
気を紛らわすために、いつもの如く朝一番の一服をしようとのっそり立ち上がったものの、なんとなく吸いたい気分にもなれず。
その代わりに
「わっ、」
琺瑯ケトルのお湯が沸くのを待っているAの
背中をそっと抱きしめにいった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 286人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「芸人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
musubi.(プロフ) - ユキさん» 貴重なご意見ありがとうございます！作者としましては櫻井さんもまた中々に捗りがちなので、移転先でもちょこちょこ作品を投稿したいと考えてます^_^ (2021年9月10日 20時) (
レス) id: 2c2c22a77b (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - こんにちは。どのお話も素敵で大好きですが、櫻井さんのお話が本人のイメージにぴったりでした。更新楽しみにしています。 (2021年9月9日 20時) (レス) id: 03f475eb75 (このIDを非表示/違反報告)
musubi.(プロフ) - na__175さん» まさか感想をいただけるとは…！この度はコメントいただきありがとうございます！今後も、リアルでキュンとする作品をお届けできればと思っております^_^ (2021年9月5日 22時) (レス) id: 2c2c22a77b (このIDを非表示/違反報告)
na__175(プロフ) - 野田さんの作品、セリフの感じが本人ぽくてキュンときました、、、、また楽しみにしています！ (2021年9月5日 20時) (レス) id: 24730842e2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：musubi. | 作成日時：2021年1月12日 23時
