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._海の全身が見える場所まで立つと、世界は、青で充ちた。美しくも、なんともないそれを、人はきっとうっとりし、その時だけの、下手な真理を語るのだろうな、と、最低なことしか浮かばなかった。

「よーみさーん」

 うしろの方で、虎杖さんが呼ぶ。ふりかえれば、一年生の三人と五条先生が、おおきなブルーシートに座って、わたしを見ていた。

「こっちおーいで」

 にこにこと、微笑みながら、五条先生は左隣の空白を指差す。そこに普段の不敵な様子はなく、教師でもない、呪術師でもない、素の、彼、といった雰囲気があった。

「どーしよっか。硝子たち遅れるって」

「乾杯、しちゃう?」

「しちゃおう!」

 意気を投合させて、笑いあうふたりは、楽しそうだった。わたしは、珈琲を淹れた瓶を取り出す。

「わぁ!詠見さんコーヒー持ってきたんだ!」

「僕はビールを持ってきたよ」

「え、なにしてんの先生。わけわからなすぎてボケさえにもなってないよ!?」

「だいじょーぶだいじょーぶ。ほら、あげる」

 そう、押し付けるようにして虎杖さんにビールと思われる飲料を差し出す五条先生。ふっと、林檎が香って、アルコールの入っていない、こどもビールの類いものだと、わかった。

「あれ!?甘い!」

「こどもビールだからねぇ」

「あたしはコーヒーをいただくわ」

「あ、おれも」

「ビールはぁ?」

『...いただきます』

「ふふ、ありがとう」

 おだやかだった。こんな夏の過ぎた季節には、海に来る人なんておらず、わたしたちは自身の喉元を通る液体と、さざ波を聞いて黙っていた。

 少ししてから、大きなエンジンの音がこちらまでも響いて、それも止んでは、会話のにぎやかな音が紛れた。

「うっせぇよパンダ。てめぇでけぇんだから助手席座れってんのに」

「寂しいんだよ!パンダだって、泣くんだぜ!?」

「私が出れないっての!」

「ツナマヨー」

 その声を眺めていたら、ふと、乙骨さんのことを思い出した。高専に入学、というか、引き取られるようにして、入った、冬。わたしに優しく声をかけてくれた。

 そういえば、あの冬からさまざまなことがあった。兄の死んだ冬も、高専に入った冬も。

 こちらへ寄せては、引いて行く波は、無機質で、兄を思えば、入水ジサツが浮かんだ。

 客観で見る、幸せ。わたしはきっと、その渦中にいる。それなのにこの冷たさはなんだろう。まわりが暖かいたびに、わたしは冷えてしまう。

 きっと、心が。
 

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うずのしゅげ(プロフ) - 夕さん» こちらこそありがとうございます😭😭 こんなに昔の作品を見てくださる方がいるだなんて😭😭😭 世界観にも文章にも美しさを大切にして書いているのでそう言ってもらえて本当に嬉しいです! (9月23日 22時) (レス) id: c82952eeb4 (このIDを非表示/違反報告)
- 美しい世界観と文章に惹き込まれました。素敵な作品をありがとうございました! (9月21日 19時) (レス) @page39 id: 420ebc061f (このIDを非表示/違反報告)
片陵 朔(プロフ) - 琥珀さんさん» ありがとうございます!うれしいです。またぜひ読みに来てください。 (2022年6月25日 19時) (レス) id: 82c6167370 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀さん - おもしろかったです! (2022年6月25日 17時) (レス) id: d4c8f7af2b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:うずのしゅげ | 作者ホームページ:https://twitter.com/8YgT1yhKwYPDEd7  
作成日時:2022年4月24日 11時

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