−2 ページ4
.「あんたが辛いのに、あんたよりかなしいような顔してさ、だってかなしみの証明が涙になってるような世の中よ?あんたはそれを、伏せた目で眺めるしかなくて、でもあんたに限っては、そんな逆恨みみたいなこと、ないのかもしれないけど、心のどこかでさ、淋しいって思ってしまうんじゃないの?それを一生懸命堪えてさ、惨めだよ、皮肉じみてるけどね、本当にね、あんたはもっと、かなしいって、叫びなさいよ、周りにうざがられるくらいがさ、愛嬌ってもんでしょ?」
釘崎さんは、一息で言い切った。それから少し、息を切らして「責めるようになっちゃて、ごめんだけど」と付け加える。
しかし思った。兄に思ったこと、あの日、兄に言いたかったこと、初めて見る兄の涙とともに、わたしも流した、在りし日の涙。きっと言いたかったのだ。わたしも、あの時。
もっと、かなしいって、叫んでよ。
なんでも堪えて、かなしいの、隠して、一人で、逝ってさ。
兄にもっと、怒ればよかった。そんな後悔が、今一瞬にして、背中を駆け巡った。
『釘崎さん。わかった。あなたの気持ち、わかった』
「そう」
言うときには、釘崎さんの涙は目にたまるばかりで流れることは、なくなっていて、伝って消えた、ファンデーションの跡だけが、そこに残っていた。
「洗面台、借りるわよ」
そう、あっけらかんとした口調で言う。この切り替えの速さを見つめながら、わたしは無意識に両手を握り合う。
わたしはそのまま立ち尽くして、釘崎さんの背後でうつむいていた。「行くわよ」と、声を掛けられるまで、床の木目を眺めるだけで、時間は過ぎた。
「そういえば、あんた、ごはん用意した?」
『珈琲を、瓶に』
「そう」
微かだったが、釘崎さんが笑ったような、そんな雰囲気を吸って、わたしも釘崎さんについて歩いた。
*
十数日ぶりのクラスメイトたちと先輩方だったが、特に胸が熱くなる思いだとか、目頭が熱くなるだとかってい現象は起こらなかった。感激もなにも、していないのだと思う。
ただ、伏黒さんと目を合わせることは、ためらわれた。
どうしようもなく、気まずかったのかも、しれない。行きの車では五条先生が運転する大型自動車に、一年生四人で乗ることになったのだが、座席は伏黒さんと隣だった。ひとつ前の座席に座る釘崎さんが、ウインクをしながらわたしを振り返った。
さては仕組まれたらしい。
29人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
うずのしゅげ(プロフ) - 夕さん» こちらこそありがとうございます😭😭 こんなに昔の作品を見てくださる方がいるだなんて😭😭😭 世界観にも文章にも美しさを大切にして書いているのでそう言ってもらえて本当に嬉しいです! (9月23日 22時) (レス) id: c82952eeb4 (このIDを非表示/違反報告)
夕 - 美しい世界観と文章に惹き込まれました。素敵な作品をありがとうございました! (9月21日 19時) (レス) @page39 id: 420ebc061f (このIDを非表示/違反報告)
片陵 朔(プロフ) - 琥珀さんさん» ありがとうございます!うれしいです。またぜひ読みに来てください。 (2022年6月25日 19時) (レス) id: 82c6167370 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀さん - おもしろかったです! (2022年6月25日 17時) (レス) id: d4c8f7af2b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:うずのしゅげ | 作者ホームページ:https://twitter.com/8YgT1yhKwYPDEd7
作成日時:2022年4月24日 11時