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.「もぉぉさっさと言いなさいよ!Aなんでしょ?とっくにあたしらは知ってんだから小学生!」
「えっ、伏黒って詠見さんのことが好きなの!?」
『声でけぇよ、ばか。それに、おれなんかと詠見とでは、無理だ』
「はぁぁぁ」
釘崎は、おれが初めて見るくらいの、超ド級のため息を吐いた。
「これだから男ってのは!告りなさい!今日!」
『はぁ?』
今度は、おれのほうがため息を吐くことになった。それも、疑問形で。
「好きなら伝える!あの子には押しが大切よ!」
『んなこと、言ったって』
本当に好きかも、分からないし。
おれは出ようとしたその言葉を飲み込んで口を閉ざす。どうしてか、言ってしまいたくなかった。
「はーい」
虎杖が、小さく挙手をする。
「それよりもさ、詠見さん、遅くねーか」
「そういえばそうね」
『...あぁ』
「まぁ、少しすれば来るでしょ」
「おう」
『だな』
そして笑った。だって、詠見のことだ。きっと、時間の伝え方が曖昧だったか、昨晩の任務が大変だったなんてのが作用しているのだろう。あの担任に比べたら、なんてことない、もはや誤差だ。
おれたちはそう思っていた。けれど、それから一時間経っても、二時間経っても、詠見がこの教室に現れることはなかった。
*
「俺、だれか補助監督の人に聞いてくるわ」
「わかったわ。それにしてもおっかしいわね」
釘崎が頭を抱える。彼女は今、どこにいるのか。
おれも緊張で曖昧に動く脳を精一杯に動かして、思考の中をさまよった。
そのとき、ある考え、というよりも、答えのようなものが、おれに提示された。
これだと思った。それは確信に近く、その瞬間に、おれは教室を飛び出す。
第六感のような、ものだった。
廊下を抜け、学校を抜ける。広い広い敷地も、おれはただがむしゃらに走った。
なにがおれをそこまでさせるのか、それは分からない。しかしおれは、がむしゃらだった。
その心境は、あのときと似ていた。
詠見が、閉じこもってしまったとき。おれはずっと、詠見が今、ひとりで泣いていないか、苦しんでいないか、命を捨てようとしていないか、ずっと、ずっと、心配でたまらなかった。
走っている途中、おれ自身が何度か泣きそうになった。
そして、思う。どうか、しあわせでいてほしい。
たまらなくこの世界は、苦しいことにかわりはないけれど、少しでも、幸福がきみにありますように。
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うずのしゅげ(プロフ) - 夕さん» こちらこそありがとうございます😭😭 こんなに昔の作品を見てくださる方がいるだなんて😭😭😭 世界観にも文章にも美しさを大切にして書いているのでそう言ってもらえて本当に嬉しいです! (9月23日 22時) (レス) id: c82952eeb4 (このIDを非表示/違反報告)
夕 - 美しい世界観と文章に惹き込まれました。素敵な作品をありがとうございました! (9月21日 19時) (レス) @page39 id: 420ebc061f (このIDを非表示/違反報告)
片陵 朔(プロフ) - 琥珀さんさん» ありがとうございます!うれしいです。またぜひ読みに来てください。 (2022年6月25日 19時) (レス) id: 82c6167370 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀さん - おもしろかったです! (2022年6月25日 17時) (レス) id: d4c8f7af2b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:うずのしゅげ | 作者ホームページ:https://twitter.com/8YgT1yhKwYPDEd7
作成日時:2022年4月24日 11時