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6 野ばら ページ1

..あの子は、馬鹿。

 頭はいいけど、だってそういうんじゃないでしょ?

 あたしはため息を大きく吐きながら、ドアノブを右に回す。

『ちょっとー、元気してるー?』

 言ったって、返事はない。背中を小さく丸めて書斎と向き合う、あの子の姿が目に映る。

『生きてる?ほら、食堂の余り物、持ってきたわよ』

 衰弱しきった今のこの子は、食事さえも、自分でできない。お腹が空かないのらしい。しかしこの数日でずいぶん顔色が悪くなった。

『食べなさーい。ほら、背中起こして』

 言って、極めてゆっくり上げられた顔は、かなしい顔をしていた。見ているこちらが切なくなってしまうような、傷ついた、表情で、こころなしか日に日に目が伏せられつつあるように感じる。

 このままこの部屋にほっぽってひとりぼっちでいたら、この子はもう、目を永遠に閉じたまま、動かなくなってしまうのではないか。そこまで、想像させられた。

 細々と口までスプーンを運ぶこの子に、あたしは泣きたい気持ちを必死にこらえた。

「くぎさき、さん」

『なぁに』

「あ、りがとう」

『いいわよ。じゃあちょっと外すわ』

 告げてあたしはそそくさとこの部屋を後にする。部屋を、出てから、顔を手で覆った。とめどない涙は、あふれてやまなかった。あの子から滲む、かなしみに、あたしは耐えられない。

 それじゃあどうなんだろう。あたしが感じるかなしみが、こんなにもかなしいのなら、あの子の抱えるかなしみは、どれほどのものなのだろう。

 今も、ひとりで泣いているんじゃないかと、あらぬ心配ばかりが募る。それは、翌日の授業までも引き摺っていた。

「野薔薇。気ぃ、抜けてんぞ」

『はいっ、真希さん...』

「休憩すっか」

『すいません...』

 ここまで支障が滲んでしまっている。いけない。あたしは、しっかりしなくては。

「どれにする」

 パンダ先輩が、ペットボトルを広げて選ばせてくれる。あたしは一番端に置いてあった、スポーツドリンクを手に取った。

「で、どうしたんだ。今日はよ」

 真希さんは、遠慮なんて捨てたような、あっけらかんとした口調で訊いてくる。しかしもはや、それがうれしい。配慮は必要だろうが、遠慮は時に、人を傷つける。

『...A、が』

 答えようと口を開くが、どう話していいかに迷って、ぽつり、ぽつりといちいち声が途切れる。

『ねぇ真希さん。あたし、Aを、たすけたい』
 

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うずのしゅげ(プロフ) - 夕さん» こちらこそありがとうございます😭😭 こんなに昔の作品を見てくださる方がいるだなんて😭😭😭 世界観にも文章にも美しさを大切にして書いているのでそう言ってもらえて本当に嬉しいです! (9月23日 22時) (レス) id: c82952eeb4 (このIDを非表示/違反報告)
- 美しい世界観と文章に惹き込まれました。素敵な作品をありがとうございました! (9月21日 19時) (レス) @page39 id: 420ebc061f (このIDを非表示/違反報告)
片陵 朔(プロフ) - 琥珀さんさん» ありがとうございます!うれしいです。またぜひ読みに来てください。 (2022年6月25日 19時) (レス) id: 82c6167370 (このIDを非表示/違反報告)
琥珀さん - おもしろかったです! (2022年6月25日 17時) (レス) id: d4c8f7af2b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:うずのしゅげ | 作者ホームページ:https://twitter.com/8YgT1yhKwYPDEd7  
作成日時:2022年4月24日 11時

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