ー2 ページ35
.「だからさ、とおちゃんも悪いひとじゃないんだ。A、とおちゃんのこと、嫌いかもしんないけど、まぁ、そう言うなよな」
兄は言った。兄は、笑っていった。自嘲するみたいな、傷付いた笑顔だった。それを見ると、かなしかった。兄がこらえている涙を、わたしが流してしまいそうで、申し訳無かった。でも、こらえられなかった。
『ごめん、にいちゃん。ごめん、ごめん』
「なぁに泣いてんだよ。それに、謝ることじゃ、ないだろ?」
そう言う兄の声の語尾が震えている。あぁ、泣くのだ、そう思う。初めて見る、兄の泣く姿。
ずっと、言えなかったこと、ずっとひとりで、かなしかったよね。
でもね。わたしがいるよ。にいちゃんは、ひとりじゃないんだよ。
言ったら、兄は、わたしをぎゅっと抱えて声を出して涙を溢れさした。この広い畳ばかりが広がる広い、部屋でふたり、強く強く、抱きしめあったまま、泣いているんだった。
*
それくらいの頃だったろうか。兄は非合法組織に加入、いわゆる、“グレた”のだった。母と父は兄のいないところで散々兄を罵った。その分わたしにかかる愛情は深くなってゆく一方だった。
しかし思えばなんだ、非合法組織に加入したと言ったって、そこまで兄を追い詰めたのは誰だ。わたしたちだ。父と、母と、そして、わたし。
わたしは知っていた。わたしという存在が、兄への圧力となっていることを。
だってわたしは母の子。ママじゃない。いつだって、誰にだって、優しい兄だからこそ、垣間見える闇の色は、深かったように感じる。兄は、優しい。しかしその心の奥底で、きっとわたしは、疎まれている。それでもわたしはそれに気づかない、純粋な妹を演じる。いつまでも、兄の妹でいたかった。
当時、わたし十歳、兄、十六歳である。
18人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
緋野こおり(プロフ) - 春光さん» コメントされるって、すごく嬉しいことです。私自身も、作品を本当に愛していて、そしてそれが、届くべき人に届いているだなんて、そんな幸福なこと、ありませんから。本当、ありがとうございます。 (2022年4月24日 14時) (レス) id: a227e14c30 (このIDを非表示/違反報告)
春光 - またもやコメント失礼します!! 話が進んでいくにつれ私の興奮が…やばいです!!!! これから応援しています。楽しみに待っております。(^o^) (2022年4月17日 20時) (レス) @page43 id: 51abf968eb (このIDを非表示/違反報告)
春光 - とても面白いし読みやすくて好きです!!(なんか上から目線みたいになってすいません(╯_╰))続き楽しみです (2022年4月3日 15時) (レス) @page30 id: 51abf968eb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:うずのしゅげ x他1人 | 作者ホームページ:https://twitter.com/8YgT1yhKwYPDEd7
作成日時:2022年2月18日 22時