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.「こっちに、いたのか」
誰かの低音が、やわらかく耳まで届く。ゆっくりと瞼を持ち上げれば、癖の強い頭髪と、高身長の人影が伸びていた。
『伏黒さん』
「あぁ。ここ、座るな」
そう言ってわたしの右隣に腰をおろそうとする伏黒さん。わたしは数冊ある書籍の入った紙袋を、自分の方まで手繰り寄せる。
「ずいぶん買ったんだな」
「はい、伏黒さんは?」
「俺は、これだ」
そう言いながら、陰から一冊、取り出して見せた。そこには、斜陽、とある。
『いいですね』
「どんなかんじだ」
『傑作です』
言うと伏黒さんはしばらく黙って、それからもう一度こちらを見て言った。
「もっと、詠見が思ったことを言ってほしい」
わたしはしばらく黙って考える。わたしの、思った、こと。目を閉じて、ちょっとしてからわたしは口を開いた。
『漠然と、いい、と思いました。言葉にしてしまってはそれは、また違うものになってしまう気がして、どうしても、言えないのですが』
「なるほどな」
『はい』
それから沈黙が少しばかり積もり、太宰治の話になり、文豪の話になり、夏目漱石で盛り上がった。その後もなんとなくの、昼下がりの延長のような空気感のままに、話が進んでいった。
「詠見は、ひとりっ子に見えるな」
『そうですか?』
「違うか」
『兄が、ひとり』
「そうか」
『わたしと対照的に、運動ができるんです。勉強は苦手だって、でも、賢いと思いますよ』
「詠見が言うんだから、そうなんだろうな」
やわらかくそう言う伏黒さんに、わたしはもなんだかとても優しい気持ちになって、心の中で微笑んだ。
『そしてかっこいいんです』
「大好きなんだな」
『はい』
初めて、話した、兄のこと。それを、伏黒さんに、大好きなんだって、理解してくれたことが、何よりも嬉しかった。
そして、もういっそ伏黒さんに全部、話してしまいたくなった。酔っていた、そう表すことが一番適当かもしれない。わたしは無性に酔っていた。だから、口は開いた。わたしはそのままひとつ、口呼吸をする。
『家族のカタチが、血のつながりだって、言いたいわけではないんですけど』
声は止まらない。体の内の、腹部か心臓かどこからか、言葉は溢れて喉ではせき止められなくなっている。
『兄とはじつの、
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緋野こおり(プロフ) - 春光さん» コメントされるって、すごく嬉しいことです。私自身も、作品を本当に愛していて、そしてそれが、届くべき人に届いているだなんて、そんな幸福なこと、ありませんから。本当、ありがとうございます。 (2022年4月24日 14時) (レス) id: a227e14c30 (このIDを非表示/違反報告)
春光 - またもやコメント失礼します!! 話が進んでいくにつれ私の興奮が…やばいです!!!! これから応援しています。楽しみに待っております。(^o^) (2022年4月17日 20時) (レス) @page43 id: 51abf968eb (このIDを非表示/違反報告)
春光 - とても面白いし読みやすくて好きです!!(なんか上から目線みたいになってすいません(╯_╰))続き楽しみです (2022年4月3日 15時) (レス) @page30 id: 51abf968eb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:うずのしゅげ x他1人 | 作者ホームページ:https://twitter.com/8YgT1yhKwYPDEd7
作成日時:2022年2月18日 22時