ー4 ページ26
.『本当にすみませんでした』
そう告げ頭を下げるわたしの声を最後まで聞かないで、彼女の声が重なる。
「べつにいいわよ、もう。あれはあたしにだって非があったわ。あたしこそ、ごめん」
『そんなこと、ないです。釘崎さんに非はありません。伴って、わたしは釘崎さんの言葉に、非常に深い感慨を受けました』
釘崎さんとは、一昨日より
『その、お礼というか、おわびというか、ささやかですが、こんなものを』
「なに...これ、セットアップの、かわいい...!」
『はい』
釘崎さんはこちらと手元の衣服を交互に目線で行き来し、その目は大きく見開かれている。少し経てば、その感情をゆっくりと収めてまんざらでもない、といったような表情で言った。
「いい趣味、してんじゃないの」
そう笑う彼女は屈託なかった。それにつられてわたしもほんの少し、口の端が持ち上がる。
「あんたそれ、笑ってんの?」
『...おそらく』
「はぁ、それがだめだって言ってんのに」
『すみません』
「うぅん。いいわ。あんたはそれでいいわ」
釘崎さんは、もう一度屈託のない笑顔をしてみせる。
「今度、ショッピングでも行きましょ」
『はい』
今夜はいつもより、少しだけ、快く眠れる気がした。
*
「おっ...っつー、仲直りしたのか」
朝からパンダさんは、謎の擬音語を使って話す。それにわたしは『おはようございます』で答える。
「おめでとさんよ、そら、今日も覚悟しとけよー」
『はい』
こころなしか、わたしのこの声はいつもよりも軽快だ。鼻で息を吐いて、前を向く。そこに広がる陸上トラックのレーンの奥には、伏黒さんの姿があった。
わたしは思う。これは恋だろうか、いや、恋だが、それの定義はわからないけれど、これは、恋だけれど、なんだかそれを認めたくなくて、それでも、彼の姿を探してしまう自分がいて、あぁ、もう。シェイクスピアの著書である、「ヴェニスの商人」に登場する人物の言葉、「恋は盲目で、恋人たちは恋人が犯す小さな失敗が見えなくなる」というのは、本当だったのだろうか。少なくとも自分は、そうだろう。だってこんなに、頭が弱くなる。
「Aは今日も、体力強化でランニングな」
『はい』
伏黒さんを横目に見ながら、わたしは頷いた。
18人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
緋野こおり(プロフ) - 春光さん» コメントされるって、すごく嬉しいことです。私自身も、作品を本当に愛していて、そしてそれが、届くべき人に届いているだなんて、そんな幸福なこと、ありませんから。本当、ありがとうございます。 (2022年4月24日 14時) (レス) id: a227e14c30 (このIDを非表示/違反報告)
春光 - またもやコメント失礼します!! 話が進んでいくにつれ私の興奮が…やばいです!!!! これから応援しています。楽しみに待っております。(^o^) (2022年4月17日 20時) (レス) @page43 id: 51abf968eb (このIDを非表示/違反報告)
春光 - とても面白いし読みやすくて好きです!!(なんか上から目線みたいになってすいません(╯_╰))続き楽しみです (2022年4月3日 15時) (レス) @page30 id: 51abf968eb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:うずのしゅげ x他1人 | 作者ホームページ:https://twitter.com/8YgT1yhKwYPDEd7
作成日時:2022年2月18日 22時