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..想えばわたしの心の化身、朧鯨がぬっと現れる。それはミンククジラの姿であり、しかしその体躯は水から生っている。

 朧鯨、詠見家は代々、齢の十四となるときに、夜世(やよ)と呼ばれる御蔵にて、呪夜月亡(じゅやげつぼう)という儀式を行うのらしい。それは月徒(げっと)、わたしの水月を突いたあの装束が、わたしの心の化身としてこころの中身を引き出し、体現させたものである。

 朧鯨は呪いに向かって進んでゆく。わたしも追って走る。朧鯨は水圧を上げ、激しく呪いへその大きな体躯を打ちつけた。吞まれている学生はその水で濡れ、それでもこの朧鯨から受けるものは何も無いので、少々の罪悪感を持って彼らを呪いから離す。

 彼らを朧鯨に併泳する魚たちの水圧で柱の陰まで運ばせ、わたしは指を(さら)って呪いへ向いた。

 今指を持つのはわたしだ。目の前の呪いだけではない。他、より強い呪いたちがわたしへ襲い掛かってくるのだろう。そこまで浮かんで身構えた瞬間に、天井から大きな呪いが現れ、先ほどの呪いを潰してしまった。きた、と思う。それと同時に、飛ばされる、と思った。

 その刹那、わたしは宙へ投げ出された。身構えてはいたけれど、心臓は掴みどころのないような浮遊感に包まれていて、意識を飛ばさぬようと一生懸命になる。

 たしかこの下はコンクリートであっただろうか、打たれる自分の姿を想像して、死ぬことはないだろうが、重症だ、とまで考えた。

 しかし違った。わたしが感じる地面は固くなく、ぎゅっと、ゆっくりと、抱かれたようなやわらかさを思った。縮こませていた首を伸ばすと、そこには虎杖さんの顔がある。

「うおっ、大丈夫?」

『なぜ』

「詠見さんが落ちてきてたから」

 そう言って彼はわたしを姫抱きにしたまま、呪いからの攻撃を身軽にかわした。この混乱で頭はよく働かない。わたしは言う。

『虎杖さん、駄目なんです。本当に。逃げてください。お願いします』

「分、かった、けど、先輩たちは大丈夫だよね?」

 見下ろすその顔から、率直な心配の情が読み取れる。わたしは真摯に答える。
 
『はい。一週間もすれば治るでしょう』

 言って、わたしは彼から降りた。やつはわたしの目の前まで迫ってきていた。

 そこへ朧鯨はブリーチングをする。すなわち、ジャンプだ。水圧が最大限に強くなるのだ。呪いは押しつぶされて平たくなる。しかしわたしをざっと掴んで校舎へ投げ飛ばした。
 

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緋野こおり(プロフ) - 春光さん» コメントされるって、すごく嬉しいことです。私自身も、作品を本当に愛していて、そしてそれが、届くべき人に届いているだなんて、そんな幸福なこと、ありませんから。本当、ありがとうございます。 (2022年4月24日 14時) (レス) id: a227e14c30 (このIDを非表示/違反報告)
春光 - またもやコメント失礼します!! 話が進んでいくにつれ私の興奮が…やばいです!!!! これから応援しています。楽しみに待っております。(^o^) (2022年4月17日 20時) (レス) @page43 id: 51abf968eb (このIDを非表示/違反報告)
春光 - とても面白いし読みやすくて好きです!!(なんか上から目線みたいになってすいません(╯_╰))続き楽しみです (2022年4月3日 15時) (レス) @page30 id: 51abf968eb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:うずのしゅげ x他1人 | 作者ホームページ:https://twitter.com/8YgT1yhKwYPDEd7  
作成日時:2022年2月18日 22時

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