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.『詠見です』

「う、っす」

『すみません、いきなり本題に入らせていただきますが、“指”について心当たりはありませんか』

 言うと彼ははっとしたような表情になって、それでも口の端は結ばれており、わたしはスマートフォンを取り出して画像を探し、彼に畳みかけることにした。

『このようなものです』

「あぁ、拾ったかも」

『はい。実はそれ、わたしの所属する、歪形(いびつなり)同好会の所持品です』

「うちにそんな同好会あったっけ」

『はい。あります』

 嘘だ。そんな同好会、ない。しかしそう言って流すことが最も軽易なやり方であろう。

「じゃ、ごめんな。俺、拾っちって」

『いえ...?』

 彼が寄越した木箱を手に取った瞬間に、軽い、と感じた。そしてごくごく少ない希望を胸に、わたしはそれの蓋を取る。しかし無かった。そこには赤いクッションが敷かれているばかり。

「俺の先輩が中身持ってんだ。あ、でも」

 そこまで言われて分かった。まずい、これは、本当にまずい。過去の自分を責め立てる暇も、今はない。彼の言葉の続き、きっとそれは、“お札を剥がす”の旨であろう。

『わたしを、学校までおぶってください』

「へ?それは、どういう...」

『すいません、人命がかかっているんです』

 そう言っても尚、訝しげな表情で固まる彼。わたしはこの際しょうがない、時間が命だ、と思い、膝を床に付ける。土下座だ。至って淑やかに、相手への敬意を真っ直ぐに。

「え、いや、いいけどさ!顔、あげて!」

 やはりだ。彼はわたしの土下座に混乱し、学校へのタクシーとなることを認める。いつもだったらこうして人を動かす自分に多大なる嫌悪を持ち、ずるずると引っ張るところであるが、今回は命が最優先。それも他人の命がだ。

 彼は「じゃあ、行くよ」と言ってわたしをおぶり、物凄い速さで駆け出した。その風は真希先輩を連想させる。わたしは吹き飛ばされることのないよう、彼の硬い肩をやんわり掴んだ。


  *


 彼がわたしをおぶって走ってくれている間に、わたしは“指”の説明をした。そして彼は指を呑み込んだりしそうだ、と我ながら最低な偏見をしてしまったところあたりで、学校まで着いた。

 そして彼から降り、一礼をしてから金属片を取り出して、かちゃかちゃと校門に大きく付く鍵を解錠する。
 

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緋野こおり(プロフ) - 春光さん» コメントされるって、すごく嬉しいことです。私自身も、作品を本当に愛していて、そしてそれが、届くべき人に届いているだなんて、そんな幸福なこと、ありませんから。本当、ありがとうございます。 (2022年4月24日 14時) (レス) id: a227e14c30 (このIDを非表示/違反報告)
春光 - またもやコメント失礼します!! 話が進んでいくにつれ私の興奮が…やばいです!!!! これから応援しています。楽しみに待っております。(^o^) (2022年4月17日 20時) (レス) @page43 id: 51abf968eb (このIDを非表示/違反報告)
春光 - とても面白いし読みやすくて好きです!!(なんか上から目線みたいになってすいません(╯_╰))続き楽しみです (2022年4月3日 15時) (レス) @page30 id: 51abf968eb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:うずのしゅげ x他1人 | 作者ホームページ:https://twitter.com/8YgT1yhKwYPDEd7  
作成日時:2022年2月18日 22時

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