ミュージックアワー【BE:FIRST】

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「って事があったんですよ……」

「はははっ！もう、みんな凄いね。やりすぎだ」

「本当のほんっとに、一回日高さんから注意してください」

「いいじゃない。ミヅキが大事にされてて嬉しいよ」

「……半分脅されてるんですよぉ……」




気付いてぇ…Aは“ヨヨヨ…”という効果音が聞こえそうなテンションで椅子に身を沈めた。

ここは都内某所にある一軒家。BMSGの事務所として日高が契約して、つい5日前に引き渡しが行われたばかり。Aと日高が今いる1階はこの数日で何となく形になってはきたが、2階より上はまだ殺風景なものだ。

数週間前『なんか置きたい家具ある？』と問われたときにメンバーが口々に「リクライニングソファ」だの「ワインセラー」だの言っていた中、Aは「ドラム」と答えた。

どうやら次に手をつけたい楽器はドラムらしい。あわよくば会社のお金で調達したろうという魂胆が丸見えだったが、A可愛い人間株式会社代表取締役の日高は「いいね！」と返すと、翌日にはカタログを彼女に差し出して「好きなの選びな」と言ってのけた。




(………で、これだもんな。)




事務所の一角に設置された真新しいドラムセット。納品日に壮大が嬉々としてプレイして以来 未だに誰かが触っているところを見た事がない。

自分でおねだりしといてなんだが、日高社長の豪傑っぷりにAは内心少し引いている。こんな人なのだ。そりゃメンバーの気狂いエピソードを話したとて笑って流されるのも納得できる。




「こんなんじゃ彼氏出来たこととかも言えないですね…」

「ははっ…それに関しては僕も思うところがあるな」

「えっ、あ……恋愛禁止ですか？」

「いやいや。アーティストは沢山恋愛した方がいいよ。勿論 必要以上に露呈しないようにね」




腕を組んで椅子に深くもたれた日高は「とはいえ娘が彼氏連れてきたら…って思ったら俺、ちょっと正気じゃいられないかも」と、昨日のメンバーより怖い言葉を発した。

今まで度々(この人正気じゃねえな)と思う場面があっただけに 改めて口にするほどであれば、Aは今後の恋愛の仕方について慎重に考える必要がありそうだ。




「彼氏出来たら紹介してね」

「日高さんの取り乱すところは見たくないです……」

「はははっ！」




まるっきり否定しないあたりが本当に恐ろしい。



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