ミュージックアワー【BE:FIRST】

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「余裕やったわ」

「ほな良かった」

「うん。……じゃあ、先行くね」

「また来週」

「ばいばい」




まだまだ全然プリントが進まないクラスメイトに小さく手を振り、Aは自分のプリントを教室の前方にある教卓の上に置いて足早に廊下に出た。

廊下の端の方で、金管楽器を持った女子生徒が数名 こちらを見やって「踊家先輩だ…！」と湧くのが見える。吹奏楽部と思われる後輩達に軽く会釈をして、昇降口へ続く階段の方へと足を向けた。





＊





茹だるような暑さの中爆速で自転車を漕ぎ、家で私服に着替える。カッターシャツとソックスを洗濯機に突っ込んで祖母に「次帰ってくるのは6日後になる」と伝えると、あらかじめ用意していたキャリーケースとリュックを背負って家を出た。


家から最寄りの駅までは歩いて15分程度。
キャリーケースを引きながら真夏の徒歩15分は中々にキツイものがあるが、“タクシーを使う”という贅沢はAの頭にはなかった。

社長やメンバーからは「身バレとか日焼け以前に方向音痴が心配だから使ってくれ」とは言われてるものの、その理由なら尚更地元でタクシーを使う意味はないので、貧乏性のAは芸能人になった今もこの地元道を変装もせずに足早に歩いている。




(生き返るー)




クーラーが効いた電車の中。汗で蒸れたマスクを外してしまいたいのをグッと堪えて、ポケットからスマホを取り出す。30分ぶりに触ったそれに、画面上には通知が浮かんでいた。




“何時着？”




絵文字もスタンプもおはようの挨拶もなく、ただ一言それだけ。幼馴染舜斗はトークアプリでもAに対してはシンプルな対応だ。




“20時過ぎくらい”




対するAの返事も淡白なもの。返事をしていて、この時間に着くのなら今日はリハに顔を出すことも叶わないだろうなと予想する。東京駅に着いたらそのままホテルに直行だろう。


ボーッと電車の窓から外を眺めていたら、手元に握っていたスマホが震える。再びそれに視線を落とせば、画面上には先程と同じ通知が浮かんで。




"みづが着いたら皆んなで飯食おってなってる"

"私今日宿題やろうと思ってたんだよね"

"レオくん家集合"

"聞いてないね"

"俺も終わってないから明日やろ"

"やる時間ないよ"

"夜やろ"




瞬時に既読がつきポンポンと続く会話。仕事がないなら今のうちに学業を終わらせておこうというAの思惑はこのラリーによって崩れ去った。
「はぁ」とため息は付いたものの、2日間会ってないだけでメンバーが恋しくなってきていたのは事実なので、なんだかんだ今夜も行われるご飯会は楽しみだ。



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