【文スト】幸せ恐怖症 vol.3《条野採菊》

＊ ページ25

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途中鐵腸さんと別れ、なんとなく街の喧騒へと足を向けた。


軍服のまま呑気に歩いているせいか、道行く人の視線が此方に向いているのを感じる。

何処となく居心地が悪くて、見えていない目元を隠すように帽子の鍔を下げた。


そのまま自宅を目指して歩いていれば、聞き慣れた声を耳が拾った。




「……」



無言で踵を返し、馴染み深い音を辿る。


特に約束もしていないのに、任務後で疲れているのに。自然と足が向く、会いたいと思う。

ドロドロに溶かして煮詰めた砂糖のような、なんとも甘ったるい己の感情に苦笑が零れた。





『＿＿自分以外の方にあまりお会いしたことが無くて、、とても嬉しいです』



はっきり聞こえたのは楽しそうな、珍しく弾みのある声。


きっと目を輝かせて、僅かに頬を紅潮させて相手を見つめているのだろう。

自分が一生涯目にする事の出来ない顔を、知人でも何でもない赤の他人が見ている。


そう考えた瞬間。頬が引き攣る程甘く溶けた砂糖が、吐き出してしまいたくなる苦さにまで焦げた。

ｶｯと頭に血が上り、一瞬で冷えていく。

熱は引いていくものの、心内に居座る黒い塊が消える事はなかった。



……簡単に気を許した彼女にも、ほんの短時間で打ち解けてみせた相手にも苛立つ。

これくらいなら逃げられないだろうかと締め具合を思案していた自分が阿呆みたいに思えてくる。

結果的に選択肢を与えてしまうなら、いっそ気の済むまで縛ってしまおうか。逃げようとしない具合を計るのではなく、完全に逃げられなくしてしまえばいいんじゃないか。



なんとも不穏で、魅力的な案だろう。

自然と口角が上がっていく。


その為にはまず、彼女を迎えに行かなくては。

関係を見せつけるように手でも繋いで距離を詰めて、それから真っ直ぐ家に帰って。

それから、それから＿＿＿＿＿。



考えながら足を動かす。

相手の1人が此方に気付いたようで、微かに含んだ笑みが耳に届く。心音すら変化しなかったその所業に積もる話もありそうだが、今は気に留めないでおく。




『随分と厄介な連中に捕まったね。死なせてくれない、例え死んだとしても離してくれないんじゃない？』



程々に高いビルから彼女の背後に飛び降りて、視界を奪う。綺麗であろうその瞳から強引に彼らを追い出す。

よろけた華奢な身体が軽い音と共に胸にぶつかる。肩を抱き締め、髪に顔を寄せる。

仄かに香る匂い、安心する鼓動。


研ぎ澄まされた感覚で思い思いにそれらを受け取ってから、そっと囁いた。

私という存在を、彼女の中に刷り込むように。


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