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「会場にいるのでは?貴女の娘をどうこうする程落ちぶれていませんし、興味も無いです。私は一途なので」
そう云って、私を緩く抱きしめる。
そして私の髪に自身の頬を寄せ「ね?Aさん」と囁いた。
心臓に悪かった。
「ッ…!折角私の、苧環の娘を宛がってやったのに。しがない警察官から総監にまで、楽に昇れるチャンスを捨てるの…?」
「権力は別に。今の役職でも十分権力はありますから」
「は、、?」
「あぁ、貴女には言っていませんでした。異能を持っている時点で只の警官な訳がない、と察して欲しかったのですが、頭が足りなかった様ですね」
期待し過ぎましたかねぇ、と残念そうに云う。
けれど彼の顔は、至極愉しげに嗤っていた。
「"猟犬"と云ったら分かりますか。まぁ分からずとも私からはこれ以上云うつもりはないです。貴女の旦那にでも聞いてください」
「………」
「肩書き、権力、その他諸々。付属品に魅力を感じませんでしたから、欲しいとすら思いませんでした」
条野さんはそう云ってから、私を抱き上げる。
急な浮遊感に襲われ驚き震えるも、彼は安心させるように私に微笑みかけた。
降ろしてくれないことを悟り、目の前にある白いシャツをギュッと握りしめた。
……人間ジェットコースターじゃありませんように。
「付属品があろうと無かろうと関係ありません。Aさんであれば良い、只それだけです」
「……!」
「話は以上です。尋問する価値もありませんから。それでは」
荒れ狂う感情の波に顔を歪ませる義母に目もくれず、彼は踵を返す。
向かう先には……窓のみ。嫌な予感しかしない。
「じょ、条野さん…」
「どうしました?」
「何で…窓に向かっているんですか」
恐る恐る問いかけた私へ、ニコリと綺麗な笑みを浮かべた。
そして私を横抱きしたまま片手で器用に窓を開ける。
「____私と、束の間ですが空の旅に出掛けましょうか」
「、?空の旅って……」
「くれぐれも、暴れないでくださいね。落とされたくなければ」
どうか私にお付き合い下さい、と いつの日かと似たような台詞で、彼は窓枠に飛び乗る。
悟ってしまった私は、所謂怖いもの見たさで下を向いた。
そして後悔した。
眼下に広がるのは、色とりどりの花々で満たされた庭園。
その景色の不明瞭さからして、かなりの高さの場所にいたらしい。
もし此処から落下したら。彼はまだしも、私では生死を彷徨う。
「待っ、…!?」
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黒灰白有無%(プロフ) - 初期の頃に読ませて頂いて私得の方読ませて頂き此方の名が出て久々拝読を試みたら完結状態で吃驚です.未拝読の所も読ませて頂き再び拝読出来た事と物語の感動で感涙です!!文章が綺麗ですし迚も面白くて大好きです又1~読ませて頂きます.是からも蜿々と応援しています!! (8月19日 8時) (レス) id: 00e0ebd256 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - 向日葵さん» コメントありがとうございます!条野さんメインの夢小説良いですよね(о´∀`о)中々数が少ないのが残念です…なので自己供給してます笑。不定期更新ですが、これからも宜しくお願いします! (2023年3月5日 21時) (レス) @page29 id: 64577bab6f (このIDを非表示/違反報告)
向日葵 - めっちゃ好みです!猟犬(条野メイン)の小説大好きなんですよ!ありがとうございます。これからも応援させていただきます!! (2023年3月2日 16時) (レス) @page29 id: bf5f5c7f70 (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - mさん» コメントありがとうございます!夢小説、となるとキャラの性格を上手く当てはめる事は必要不可欠ですが大変な作業ですよね…。私も意識しつつ書いているので、そう言って頂けて嬉しいです(о´∀`о)不定期更新となってしまいますが、これからも宜しくお願いします! (2023年3月1日 23時) (レス) @page29 id: 64577bab6f (このIDを非表示/違反報告)
m - 初コメント失礼します。とても綺麗な文章と構成に感動しました。上手くキャラの性格に合わせている所には尊敬しかなく、すべてが本当に好きです。どうかお身体にはお気をつけて楽しんでご活動続けてくださると嬉しいです。これからも心から応援しております。 (2023年2月24日 18時) (レス) @page27 id: 6abbe396c0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハル | 作成日時:2021年12月9日 0時