10_認められない。 ページ13
長尾視点
俺があの人型の魔(ぽいやつ)を見つけて、晴に届けてから2度目の夜が来た。
1度目の時は都で魔化していたのでその場で抑えたが、また暴走する可能性は少なくない。
いや、確実にすると思う。
それを見越したのか、藤士郎は俺に夜間の魔の監視を頼んできた。
「景くんじゃないとあの子を抑えられるか分からないから…。」と言われたのは今日の昼の話で、今はその部屋に向かっている途中だ。
窓の外は、空が夜の色に染まっていた。それを背景に、雨に濡れた桜が薄く月明かりに輝いて見える。
『やっぱ桜、綺麗だなぁ…』
藤士郎が言うには、もう魔は眠っているらしい。流石に沢山の事がありすぎて疲れたのだろう。
早めに眠りについた様だ。
部屋の前に着いた俺はまず、扉を開けずに部屋の中の音に耳を澄ませる。
微かに寝息が聞こえたので、そっと扉を押した。
ベッドの上で眠っていたあの日の魔は、とてもあの時と同じ生き物だとは思えない程綺麗な顔をしていて、どう見ても人間だった。
側にあった椅子に腰かけ、様子を見る。
ふと、彼女はうなされているのか汗をかき始め、表情を歪めた。そして一筋、涙を流した。
目が覚めてしまったのか、ついに魔が暴走し始めたのかと刀に手をかける。直後、彼女がか細い声で呟いた。
「…ごめんなさい……。」
寝言だったのだろう。また彼女は寝息をたてはじめた。
自分が人の命を奪った事、それが悪夢となっているのかもしれない。乾いて跡にならない様、涙を拭っておいた。
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座りながらウトウトし始めていた頃、急に彼女がグルルルル…と唸った。
あの時と同じ唸り声。
『やっとか。』
思わず刀に手をかけたが、「絶対に傷つけるなよ!」という晴の声を思い出し直ぐに手を離した。
魔は鎖が煩わしいのか、暴れている。今にも鎖は千切れそうだ。
でも幸い、まだその力を使いこなせていないのかどうなのか、凶暴さで言えば普段払っている魔の方が上だ。あの日と同じ様に魔の首を叩く。
もう効かなかったらどうしようかと思っていたが、まだ有効だったようで、直ぐに魔は動きを止め眠りについた。それを確認した俺は静かに部屋を出る。
部屋から出て足を止める。
やはり、彼女は魔そのものだった。半分人間だろうと、人の命を奪った彼女を人間としては認められない。
職業病ってやつかな。
柄じゃないけどな、と笑い、自分の部屋へ戻った。
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景色_Δ(プロフ) - 仁乃さん» そうなんですか!?ありがたいです...様々なことが重なり、完結とさせていただきました!最後まで読んでくれるんですね!?ありがとうございます...!!! (2021年6月2日 22時) (レス) id: 1c54a3263e (このIDを非表示/違反報告)
仁乃(プロフ) - 景色_Δさん» あ、私もあなたの作品を一度読んだ事がありました!主人公の語り方が面白く、思わず見入ってしまっていたのを覚えています。完結していたんですね。今から最後まで読ませて頂きます! (2021年6月2日 22時) (レス) id: f8c4049ddb (このIDを非表示/違反報告)
仁乃(プロフ) - 景色_Δさん» コメントありがとうございます!喜んで頂けて嬉しいです。頑張ります! (2021年6月2日 22時) (レス) id: f8c4049ddb (このIDを非表示/違反報告)
景色_Δ(プロフ) - うわああああ!!!素敵な小説発見!!感謝ですー!!!更新頑張ってください!!応援してます!!! (2021年6月2日 19時) (レス) id: 1c54a3263e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:仁乃 | 作成日時:2021年5月30日 18時