4.軟禁 ページ4
次に目が覚めた時に最初に目に入ったのは、コンクリートが打ちっぱなしの天井だった。寝かされているのはベッドだろうか、スプリングが身体を固定し、身体の上には柔らかい布がかかっている。部屋は薄暗くはあるものの、意識が落ちる前とは違いちゃんと人工的な光があった。
光の先に目線をずらせば、カタカタとパソコンのキーボードを鳴らしている男の姿が目に入った。真っ暗な部屋で会った時とは違い、普段着のようなラフな格好をしているため、整った顔がよく見える。数秒じっと見つめていても、男はこちらを見る気配はない。きっと起きていることには気づいているはずなのに。
ただじっとしているだけでは埒があかない、と上半身をゆっくり起こす。手をついたシーツは清潔な白だった。手足も特に拘束されている様子はない。
「おはようございます」
「……」
相手の顔を見て、聞こえるように声をかけたのに、視線すら返ってくることはなかった。その様子に少しムッとするも、仕方がないと目線を周囲に移す。
部屋の中にはベッドが一つ、ソファが一つ、デスクと机が鎮座しており、そこには男が座っている。男の手持ちはパソコンだけのようで、他に物が転がっている様子は見られない。一言で言うなら生活感が感じられない。雰囲気からいって軟禁用の施設か何かだろうと当たりをつけ、壁に寄りかかって男を見つめる。
どれくらい、そうしていただろうか。時計が無いせいで今が何時かも何日かも分からず、ただ男を見ていることしかできない。そして男はこちらを見ない上に声をかけても返事が無いため、結果的に暇を持て余してしまう。
部屋の中を動き回るわけにもいかず、せめてこの埃っぽい格好から着替えたいと思いもう一度声をかけようとしたところ、不意にくうとお腹が鳴った。そういえば、真っ暗な部屋に行ってから食事を口にしていない。
「おなかすいた」
「今更か」
切なそうな音を鳴らすお腹に手を当てて、撫でていればいつのまにか頭の上から声が降ってきた。パソコンは机に置いたようで、仁王立ちした男が冷たい天色でこちらを見下ろしている。
その様子に少しびくつきながらも、餓死はしたくないという一心で男を見上げる。決して立たず、敵意がないことをアピールする。一度襲ってきた相手を拘束しないのは、簡単にねじ伏せることができるからだろう。だからせめて、万全の状態でこの男に事情を聞きたいと思ったのだ。
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作者名：霧音 | 作成日時：2020年11月15日 0時
