冬の寒さと恋は人を変えるらしい (ページ12)

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11.心残りのままページ12

あの日は結局そのまま、何一つ進展も発展もなく
ただ友達と、ただ同じベッドで睡眠を取っただけの一晩で終わった。

だけど心は不思議と満たされていて。

美味しいモーニングまでご馳走してもらって
パリパリのワイシャツに袖を通し
お見送りまでしてもらって……

至れり尽くせりだったから、という訳でもなく。

これはきっと単純にAちゃんの事が
好きだから幸せなのだろう、心からそう思った。

自宅に戻りふと視界に入るのは
半額で衝動買いをした食パン。

あかん、またAちゃんを思い出してしまう。

この後、「また食べに来てもええ？」なんて図々しい
口実のような言葉を残して来てしまったことを
少し後悔することになるなんて知らずに。

「えっ、ホンマですかそれ…」

「悪いなぁ河野。家庭持ちを除くと
どうしてもこうなってしまうんだよな、、。

あと核になって動けるやつと言えば河野だし
1年、まずはお願いできるか？」

「分かりました、頑張らせて頂きます」

繁忙期に入り、何時に帰って眠りに落ちたのか
どうやって会社まで来たのか分からない。
その位目まぐるしく過ぎていった。

そんな日々を数ヶ月、やっと本来の日常を取り戻した。
これでAちゃんにも連絡できるなぁなんて
思っていた時に「河野、ちょっといいか」と課長からのご指名。

ミスはないはずやろから、きっと多分、そうなんやろな。
指定されたC会議室に向かう途中で同期に背中を叩かれ
目配せと口パクで”がんばれ”と励まされる。

ご指名された理由は予想通り、転勤を伴う異動
だった。
来月から新しくできる奈良支店に営業部リーダーとして
頑張ってくれないか、とのことで期間はまず1年。

来月と言っても今日はもう14日。
一月もなく新しい支店に行かなければならへん。

もちろん俺に拒否権はなくて、拒否する理由もないし
一応、昇進になる訳で二言返事で引き受けた。

仕事の引き継ぎは、同期や後輩のおかげですんなり進んだものの
そもそも抱えていた量が多く休む間もなく
ただ日々が過ぎていくばかりだった。

あの日からもう半年が経ち、今更口実も無効やろな。
疲れのあまり、いつになく消極的な思考になって
そのままAちゃんに連絡もせず、28日を迎えた。

「あと3日やなぁ」

「そうですね、寂しいですか？」

ギリギリまで本店で勤務の為
今日は最後の挨拶回り。

後輩の子を連れて取引先へ向かっていた。