無理心中、お断り【太宰治】

来訪 ページ7

普段の私の女子高生生活といえば、授業を真面目に受けて友達と色々と喋ってまた授業を受けて先生に言われた委員会の仕事をこなして……言わば、本当にどこにでもいる真面目な模範生の生活である。



成績は学年10位以内をキープ(これが唯一の自慢)、運動も人並みにはできるし、先生から見ればまぁまぁ優秀な生徒といったところだろう。


本当に私はどこにでもいる高校生なのだ。



……私が武装探偵社の事務員であること以外は。



「A〜、テストいけた〜？」


「……昨日全然勉強できてないから無理かも」


「とか言ってどうせ満点なんじゃないのぉ？」


「……いや、ホント無理かも」



勉強なんて出来る訳ないじゃないか。


いつ攫われて無理心中の餌食に遭うか分かったもんじゃない。


あの砂色の外套が頭の中をちらつく度に首に麻縄の感触が蘇ってシャーペンを持つ手が震える。


……危うく死ぬところだったのだ。ちょっとした心的外傷(トラウマ)になっても仕方ないだろ。



「A、隈出来てるよ」


「……昨日眠れてなくて」


「やっぱ勉強してんじゃ〜ん」


「いや本当してない……」



今日だけはいつも面白い友人のノリがキツく思える。


ナオミちゃんにも心配されるし……うわぁ、今日バイト入ってるし最悪。


休んでやろうか。



なんて国木田さんから褒められる程の前人未到の無遅刻無欠席記録を持つ私がらしくない考えを起こした時廊下が女子の黄色い声でわぁッと騒がしくなった。


喧嘩でも起きたんだろうか。



「ちょっ、見て見て彼処(あそこ)の人〜！ほらっ、校門の前に居る人！


超美男(イケメン)〜！」



『美男』という響きにびくっと体が反応する。


……何故だろう。勘の悪い私でもはっきりと厭な予感がする。


(……よし、逃げよう)



しかしガシッと掴まれた腕により私の企みは0.2秒で塵と化した。



「美男だって！見に行こうよA！」



友人てめぇ……



「い、いいよ私は……」


「ダーメっ！目の保養目の保養！」



見たら目の保養どころか目と心が死ぬ気がする。


しかし引きずられるように廊下の窓際まで来させられ、半強制的に校門の前を見せられた。


……そこまで目の良くない私でもハッキリと分かる、砂色の特徴的な外套と体から見え隠れする包帯。


遠くからでも分かる端正な顔を此方に向けて笑い、その人は此方に手を振った

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