無理心中、お断り【太宰治】

質問 ページ18

「A、アンタ白無垢とウェディングドレスどっちに憧れてる？」


「は……？」



挨拶をすっ飛ばして親が子に話しかける話題では到底無いだろうというツッコミも入れられず私は数秒程ポカーンとした。



「……急に何」


「いやねぇ、昨日太宰くんと話し込んじゃって」


「はぁ？」



とんでもない固有名詞(ワード)に目をひん剥くがそんな私には一切構わず母は照れるように何かに思いを馳せて頬を染めた。非常に気持ちが悪い。



「太宰くん、いいわねぇ。いい男ねぇ。笑顔も素敵で優しくって一途でオマケにあんな美青年で長身でスラッとして絵に描いたような好青年で……まさかアンタがあんないい物件捕まえるなんて思ってもみなかったわぁ！」


「ごめんお母さん黙って。突っ込ませて。追い付かないから」



ツッコミと思考が追い付かん。


っていうかお母さん、貴方の仰る好青年は笑顔が胡散臭いただの心中野郎です。見た目以外は全てが最悪な人です。



「ま、まずなんであの人とそんなに親しくなってんの？」


「あの人だなんて他人行儀なんだから！未来のお婿さんよぉ！」


「質問に的外れな指摘で返すなぁあ！」



未来のお婿さんなんて冗談じゃない。


未来の性犯罪者の間違いだろ。



「っていうか何『太宰"くん"』って！親しげに名前呼んでんじゃねぇよ気持ｯち悪い！」


「そんか汚い言葉遣いじゃ太宰くんに嫌われちゃうわよぉ？」


「願ったり叶ったりだわ！」


「も〜お照れちゃってこの子は……」



こ、こんのクソバ……


……いや、流石にやめておこう。


私の話を聞かんか仮にも親だろ惚けんな気持ち悪い。



「太宰くんはウェディングドレス姿見てみたいって云うのよ？でも白無垢も似合いそうだし迷うなぁって！私も今時白無垢はなぁって思うんだけど……」


「そんな気持ち悪い話するなら金輪際あの人家に入れないで！あと私は絶対ウェディングドレス！あの人とは結婚式で絶ｯ対並ばないけどね！」



早足でまくし立てつつ玄関まで走り、靴を乱暴に足にはめる。



「そんなに急ぐ必要ないでしょ？まだ学校には余裕で着くし」


「ナオミちゃんと待ち合わせしてんの！」



もう本当ウンザリしてるから今日はナオミちゃんに全部打ち明けて愚痴ります。


出て行こうと扉に手を掛けるが「あ」と思い、報告し忘れたことを云おうと母を振り返った。



「あと私、今日谷崎家に泊まるから」

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