Sixtystory. ページ13
『……っ!?』
ドクンっと心臓が波打つ。
耳の近くで優しく囁かれた言葉が深く鼓膜を撼わす。
唐突の言葉に柄にもなく動揺した私は、
目の前の日和の胸を押して、思い切り突き放した。
ニコニコと笑うその作り笑いが胸糞悪い。
"Aさん達"と複数人いる事を指している言葉から、
ザックが殺人鬼だと知っているのも確実だろう。
確実だと確信した上で疑問系なのも性格が悪い。
なぜ、コイツが知っている?
誰から聞いた?
……いや、私達の事を知る者も出てくると、
覚悟していなければならなかったのは私の方だった。
まるで獲物でも仕留めるかのような視線で、私を射抜く日和を目の前に、嫌悪感を一切隠す事なく眉を顰めた。
すると、ふ、と嘲笑ったような笑みを零される。
「珍しいね、Aさんが動揺するなんて」
『……何を望んでる?』
「まぁまぁ、ゆっくり話そうよ。
せっかく、二人きりになれたんだから」
コツっ、と靴底を鳴らして、一歩私との距離を縮める日和。
私は、その縮まった距離に警戒しつつ、そっとリボルバーを仕舞っていたコートのポケットへと手を突っ込んだ。
それと同時に感じる違和感。
指先に触れたのはリボルバー特有の鉄の冷たさでは無く、
少々硬めの紙の質感だった。
カード……?
こんなもの手に入れた覚えは無い。
指先だけで判断しつつ、
小さな疑問を胸に抱いていれば、
目の前の日和の口が再び開いたのが視界の端で見えた。
「あのさ、僕、Aさんのこと嫌いなんだよね」
『…………』
清々しい程に正直に放たれた言葉。
唐突に何を言われるかと思えば。
別に、私が、誰に好かれようが嫌われようが、それほど、どうでも良いことはない。
それをそのまま伝えれば、
"Aさんならそう言うと思った"と笑われる。
「Aさんはいつもそうだよね。
一人だけ、一歩引いたところで澄ました顔してる癖して、毎回、肝心なところで手を差し出してくる。
そうやって、皆の期待を集めている。
嫌い、嫌いだよ。誰もが信用するその人柄が。
だけどさ……」
不意に途切れる日和の言葉。
私を見据えてくるその目が暗がりに寂しく光ると、
日和はそっと私の腕を掴み、私と視線を合わせた。
これまでに見た事が無いほどの真剣そうな瞳。
「僕は……、
死にたくないんだ」
いつも偽っている人間の言葉だと思えないくらいに、
その声には、嘘偽りのない純粋な感情が篭っていた。
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みるく味 - あ、終わってるんですね… (2023年4月9日 18時) (レス) @page18 id: fe5a781a36 (このIDを非表示/違反報告)
くろねこさん - あっ...あ...終わってはる...😭 (2023年2月5日 22時) (レス) @page18 id: bd60be6b86 (このIDを非表示/違反報告)
白猫 - めっちゃ好きなのに、終わってる……泣きたい (2022年11月4日 1時) (レス) @page18 id: c36a6b3b63 (このIDを非表示/違反報告)
梨夢(リム) - 終わってる…。 (2022年7月24日 4時) (レス) @page18 id: 265c125c54 (このIDを非表示/違反報告)
Rukia (ゆっくりゆる) - キャアァァアァァァ好き。(突然に冷静になる精神年齢30歳) 日和…ひよりんヤバイよ夢女をぶっきょろする気か? さつてん×キミシネはストーリー系が中々無くてあっても男主なのでありがてぇ……状態でござりまする。 (2021年5月29日 3時) (レス) id: 2e12baa0e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:高橋 | 作成日時:2018年9月4日 11時