第四章：孤独の葛藤/もう一度 ページ46
歌い終わると、
一斉に拍手が起こった。
A「わっ…」
急にスイッチが切れて
恥ずかしさに顔が赤くなっていくのがわかる。
富島「素敵だったわ！！
こんなに、この曲を理解して表現してくれる
なんて…貴方は最高のファンよ！」
A「あ、ありがとう御座います…っ」
大外「演奏し甲斐があったよ。良い声だった」
A「え、えっと…///」
照れてしまう。
大外「ドラム以外は完璧だったよね」
ちゃっかりドラムがディスられてる。
高千穂「黙ってるか歌ってるかだけなら
間違いなく、いい女だよな」
A「喋るなってことですか？」
普通に褒めてくれよ。照れるのは照れるけど
今日くらいは普通に褒めろよ！！
A「…あれ」
阿鳥くんがいない。
演奏を終えたら、さっさと消えてしまった。
お礼と謝罪がしたい。
阿鳥くんを探しにバーを出て少し歩くと、
A「あっ…」
フロントのドアから外に出る
阿鳥くんの背中を発見した。
後を追って私も外へ向かう。
阿鳥くんは階段に座り込んで
ぼけっと夕陽を眺めていた。
A「阿鳥くん、お疲れ様」
阿鳥「あぁ、Aちゃん。…お疲れ様」
A「隣、良い？」
阿鳥「うん」
隣に座って阿鳥くんの顔を観察する。
バーの時は大人の顔してたけど…
今はいつもの阿鳥くんだ。
A「あの、ありがとう。演奏してくれて…」
阿鳥「ああ……うん」
力の抜けた返事だ。
A「その…触りたくなかったんだよね？」
阿鳥「そうだね。
…3年間くらい触ってなかったし」
A「でも、見た感じ
ダメージ受けてる様には見えないけど……」
阿鳥「そうなんだよなぁ…。少しでも触ったら
夢を諦めた時とか、壁にぶつかった時とかを
思い出すかと思ったけれど……案外平気だった」
A「時間が解決する…ってやつかな？」
阿鳥「そうかも。俺も少しは大人になったの
かな。…正直に言うと、楽しかったし」
そう言って、恥ずかしそうに微笑んだ。
阿鳥「現役時代の終盤は、もう苦しかったんだよ
サックス1本じゃ全然食べていけないし、バイト
に時間を割くと如実に腕が鈍っていくし…
……怖かったんだろうね」
A「でも、今回は楽しめたんだよね？」
阿鳥「プロを目指していた時にあった力みが
無くなったからかも」
ラフにやれたんだ。
阿鳥「もし………」
A「……」
阿鳥「もし…生きていたら…
もう一度、趣味でやり直そうかな」
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作者名：麦兎 | 作成日時：2019年6月25日 0時
