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033 苦しい ページ33

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その続きはないまま、黙り込む大貴くん。

視線だけはわたしに移すから、目と目がパチリと合う。でもやっぱり、その先は教えてくれなかった。









大貴「もう泣かないの。ほら。」





「…っあ、」









ほっぺたに伸びてきた手。

触れられてしまいそうで、体を引っ込める準備をしたけど、









大貴「大丈夫。触んないから。」





「…………、」









そう言って、大貴くんはふわふわのタオルでわたしの涙を拭ってくれた。

折りたたまれたタオルからは、彼の手の温もりさえも感じられないけれど、どこか温かいような錯覚さえ覚えるのは、きっと彼の優しさ。









大貴「わかんなかったでしょ、色々。」





「…うん、」









そう、わかんなかった。お皿の洗い方も、かき氷の削り方も。自分から言ったくせに、ほとんど何もできなかった。でも、帰れって言わずに付き合ってくれたあの店長さんは、大貴くんみたいに優しかった。









大貴「ありがとう。」





「へ……?」





大貴「これ、もらうために頑張ってくれてさ。」









ありがとね、って。

二度目のありがとうと一緒に、ぽんっと頭に感じた重み。分厚いタオル越しに大貴くんが撫でてくれた頭は、たったそれだけでじわりと熱くなった。





そしてまた溢れてきた涙を、泣かないのーって笑いながら拭ってくれる大貴くん。


あぁ、もうわたしはこの人に惚れてるんだ。大好きなんだ。叶わないのに。こぼれ落ちそうになった何度目かの涙は、唇を噛み締めてぐっと堪えた。




















そういえば大貴くん、何に気づいたんだろうって。









「何に気づいたの?」





大貴「んー。……………自分の気持ち、かな。」









ふふ、と笑った大貴くん。色々と気になったけど、なんとなくそれ以上は聞けなくて。先に歩き出した彼の背中を小走りで追いかけて、また隣に肩を並べる。




触れられないことが苦しいって、今日初めてそう思った。









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むぎ(プロフ) - まくるさん» ありがとうございます!大変なご時世だからこそ、少しでもみなさまの息抜きになればと思っています(^ ^) この新作もキュンキュンしていただけるように頑張ります。これから色んな展開が出てきますので、最後までよろしくお願いします☆ (2020年7月4日 19時) (レス) id: 88d801cec9 (このIDを非表示/違反報告)
まくる(プロフ) - 初コメント失礼します。新しい作品ですね、おめでとうございます!いつもキュンキュンしながらむぎさんの作品を拝見させて頂いております。こんなご時世で大変かもしれませんが、自分のペースでいいので更新頑張って下さいね♪ (2020年6月28日 18時) (レス) id: 968d5c61de (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:むぎ | 作成日時:2020年6月28日 15時

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