025 わたしが人間なら ページ25
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大貴「食べないの?」
「…………大貴くん、先に食べて。」
かき氷とやらを片手に、2人並んで縁側に腰掛ける。
真っ赤なシロップがかかったその食べ物を見ていると、「溶けちゃうよ?」と大貴くんが笑った。どうやら早く食べないといけないものらしい。でもこの色。この冷たさ。なんだか躊躇ってしまう。
大貴「ふふ、毒味ね。任せろ。」
いただきまーす、と躊躇いもなくスプーンで掬った大きな一口を、パクっと口に含んだ大貴くん。
にこっと笑って、「うま!」って目を輝かせて。なんか大貴くん見てると元気になる。ほんとに夏が似合う男の子だ。先に食べさせておいて、その一口が終わっても微動だにせず大貴くんを見つめてしまっていたわたし。大貴くんが、ん?と見つめ返した。
はっ、としたわたしに、また可笑しそうに笑って。自分のかき氷をもう一度掬って、今度はわたしの口元まで運んできた大貴くん。ど、どういう……
大貴「あーんは?」
「へ……?」
大貴「ほら、あーんして?」
ん、と唇にくっつけられそうになって、咄嗟に開けた小さな口。強引に食べさせられたそれは、ひんやりと舌を冷やした後、一瞬にしてなくなってしまった。
大貴「うまいでしょ?」
「………うん、美味しい。」
大貴「ふふ、よかった。ほら食べな。」
わたしが固まっていたから、躊躇ってると思って食べさせてくれたのか。大貴くんのスプーンだったのに、普通に食べちゃったな。こういうの、人間の世界ではなんて言うんだろう。
それからも、美味しそうに頬張る大貴くんの横顔を何度も見つめてしまった。
風に揺れる風鈴の音を聞きながら、縁側で食べるかき氷。これがきっと人間の『夏』。海の世界では出会えなかったたくさんの出来事に、毎日嬉しくなる。でも同時に襲ってくる寂しさや苦しさは、きっと大貴くんへの気持ちが日に日に膨らんでるから。
大貴「手、冷たくない?大丈夫?」
食べ終わったガラスの容器をお盆に置くと、結露によってベタベタになったわたしの手を見て大貴くんが言った。先に食べ終わっていた大貴くんはもう平気なようで、きっと温かいその手をふわっと差し伸べてくれる。
わたしが人間なら、普通の女の子なら、この手を握って『ありがとう』と微笑むんだろう。
「…………、」
……わたしが、人間なら。
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むぎ(プロフ) - まくるさん» ありがとうございます!大変なご時世だからこそ、少しでもみなさまの息抜きになればと思っています(^ ^) この新作もキュンキュンしていただけるように頑張ります。これから色んな展開が出てきますので、最後までよろしくお願いします☆ (2020年7月4日 19時) (レス) id: 88d801cec9 (このIDを非表示/違反報告)
まくる(プロフ) - 初コメント失礼します。新しい作品ですね、おめでとうございます!いつもキュンキュンしながらむぎさんの作品を拝見させて頂いております。こんなご時世で大変かもしれませんが、自分のペースでいいので更新頑張って下さいね♪ (2020年6月28日 18時) (レス) id: 968d5c61de (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2020年6月28日 15時