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「 はい、あーん♡ 」
「 ほら、口開けろ 」


 兄弟の圧に負けて、少し口を開いた瞬間、二つのスプーンが押し込まれる。イチゴシロップの甘さが口内に広がっていくのと同時に、キーンと脳を締め付けるような痛みが走る。

 ここは海の家、それも一番奥のテーブル。蘭に少しだけ話そーぜ、と言われて引き摺り込まれ、今は竜胆に奢ってもらった大きなイチゴのカキ氷を食べているところだ。


「 美味いかぁ? 」
「 んん、美味しいよ 」
「 昔っからイチゴ味好きだよな、お前 」


 テーブルの上に肘をついてにやにやと笑う蘭と、額に張りついた私の前髪を直してくれる竜胆と、二人にされるがままの私。関係性は懐かしいあの頃のままで、少しだけ安心する。

 灰谷蘭と竜胆、それと私は、従兄弟(いとこ)同士だった。それも週末ごとに互いの家を行き来するくらいには仲が良かったのだ、私の父親が死ぬまでは。


「 昔の夏祭りでさぁ、Aだけカキ氷零して泣いてなかった? 」
「 あー…浴衣にもこぼしたやつか 」
「 よく覚えてるなあ、二人とも 」


 恥ずかしいな、と笑いながら目を伏せる。こんなに道草食って、エマちゃんたち心配してるかな、と思いつつも、この二人からは逃げ出せないことくらい、最初からわかりきっていて。私は、取り敢えず二人の話に耳を傾ける。


「 なぁA 」
「 うん? 」


 蕩けるような甘い声にふと顔を上げれば、人形のような笑顔を浮かべた二人が、私を見ていた。


「 お前さ、なんで葬式のあと勝手に帰ったんだよ 」


 葬式。よく聞き慣れたその単語を、脳内でゆっくりと反芻する。


「 ずっと待ってたんだけど、お前のこと 」
「 ……どうして? 」
「 連れて帰って、一緒に暮らすために決まってんだろ 」
「 聞いてないけどなあ……そんなこと 」
「 俺らだって聞いてねぇよ、一人暮らしするとか 」
「 それはごめん、私が自分で決めたから 」


 蘭はサクサクとカキ氷を崩しながら、甘ったるい声で言う。


「 へぇ、一人ぼっち、怖いのに? 」


『 この子は、少しも笑ってはいないのだ。』


 蘭と竜胆が、にやにやと笑みを浮かべて、交互に囁く。


「 全部知ってるぜ。本当は怖がりなのも、泣き虫なのも、女嫌いなのも 」
「 俺らと暮らすなら、Aのこと守ってやる 」
「 絶対一人にしねぇし、ずっと隣にいる 」


 ____だから、俺らと一緒に帰るぞ。
 
 

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冷えた麦茶 - 無気力に自信が有る人さん» コメントありがとうございます!私自身、人間失格という響きと語呂の良さが大好きなので、共感してくださる方がいてとても嬉しいです!ありがとうございます! (2021年8月1日 22時) (レス) id: 32defcba54 (このIDを非表示/違反報告)
無気力に自信が有る人 - 人間失格という題名に惹きつけられて覗いたら、最高ってこういう事ですね‥………! (2021年8月1日 22時) (レス) id: 19b8beddf0 (このIDを非表示/違反報告)
冷えた麦茶 - 風来坊になりたいさん» コメントありがとうございます!自分の好きなものを詰め込んだ作品なので、気に入っていただけてとても嬉しいです!ありがとうございます! (2021年8月1日 21時) (レス) id: 32defcba54 (このIDを非表示/違反報告)
風来坊になりたい(プロフ) - 文学作品と織り交ぜて書く作品が少ないので、すごく刺激的でおもしろいです。このサイトでは珍しい難しめの作品で、こういうのを探していたのでとても嬉しいです。これからも更新楽しみにしています、頑張って下さい。 (2021年8月1日 20時) (レス) id: 359cc97fae (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:冷えた麦茶 | 作成日時:2021年7月31日 21時

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