才能のない奴 ページ8
目を開けると、そこに煉獄はいなかった。
細かな斬撃が入った車内、あれからどれだけの時間が経っているのかは明白ではない。
「行かないと……」
何度も繰り返してきたのだ。
この後、なにが起こるのかなんて考えるまでもなく知っている。
Aは刀を手に列車から飛び降りて、暗い森の中を走って行く。
その人がどこにいるのかは分かっている。
この深い森の奥に必ず、いる。
「猗窩座……！」
Aの声にその鬼は振り向いた。
見覚えのない女が自分の名を知っていることに少なからず驚いた。
けれど、猗窩座にとって彼女は敵でも何でもない。
もっと言うのならば、興味の対象ですらない。
Aから背を向けて立ち去ろうとする猗窩座だったが、Aがその背中に斬りかかろうとした。
猗窩座は咄嗟に避けたが、それでもAが退く様子はない。
「お前は誰だ」
「そんなこと、どうだっていい！」
「あぁ、どうでもいい。が、お前は俺に用があるんだろう。勝てる見込みもないだろうに」
「私はお前に勝ちにきたんじゃない…！」
その言葉に猗窩座は更に訝しげな顔をする。
昔から、一度も猗窩座に勝てたことはない。
それどころか刃先が届いたことだってなかった。
Aは元々、煉獄から簡単な剣術の稽古をつけてもらうことはあっても、それは鬼殺隊に入ることを前提とした稽古ではなかった。
せいぜい護身程度のもので、こんな風に実践を行うことなんてないと思っていた。
けれど、煉獄が殉職してからAの世界は一変した。
鬼の血が流れる自分が鬼によって亡くなってしまった煉獄の家に居続けていいのかも分からず、鬼の存在そのものを強く恨むこともあった。
その度に、自分の身体の中にも同じ血が流れているという事実に何度も絶望した。
煉獄の未来を望んだ。
その時からAは繰り返す度に数多の鬼と戦い、いつかは猗窩座を煉獄と対峙させる前に倒せたら、そうなればどんなに良いだろうかと思った。
何度も何度も繰り返して、いつか運命が変えられる日が来るんじゃないかと期待して。
だけど、現実はそんなに甘くはない。
「お前が…お前さえいなければ煉獄さんは……！」
どんなに憎くても、殺したくても、才能がない人間は怒りだけで強くなれる訳じゃない。
何度も何度も斬りかかって、その度に「鬱陶しい女だな」と避けられて、結局は勝てないのだ。
悔しくて情けなくて涙が出てくる。
また、いつも通り猗窩座は重い一撃だけを食らわせて、その場を立ち去った。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - なかむらさん» コメントありがとうございます…！！途中まで鋼の意思で絶対にバレないようにしないと！と思っていたので、バレてなかったようで安心しました…！私もいつもなかむらさんの作品の余韻風呂に浸かっているので、今日はお返しができて良かったです！ (2021年4月20日 12時) (
レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - 完結おめでとうございます！途中、どうあがいても悲しい結末になってしまう気がして本当にはらはらしていたのですが、これ以上なく優しくて暖かなラストで…良い意味で裏切られました(笑) 本当に綺麗な物語だなぁと余韻に浸っています。今回もありがとうございました！ (2021年4月20日 0時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - かんみさん» コメントありがとうございます。書き終わるまで何度も悩み、試行錯誤した末の完結でしたので、温かいお言葉を頂けて本当に嬉しいです。他作まで触れてくださり、こちらこそありがとうございます…！！ (2021年4月19日 19時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - この度は完結おめでとうございます…！生存ifはこの上なく難しいにも関わらず本当に納得の、そして感動の小説でした。他作も大好きです。春の陽だまりのような気持ちで包まれます。素敵な作品を書き上げて下さり、ありがとうございました...！ (2021年4月19日 15時) (レス) id: 3c3b852a9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月ヶ瀬ましろ | 作成日時：2021年3月24日 20時
