うそつき ページ7
煉獄は無言のままAを見下ろす。
今まで幾度も自分が知らない場所で独りで戦ってきた彼女が、初めて会ったときの寂しそうな少女と重なった。
守ると誓ったのに、側にいると約束したのに、なにひとつ成し遂げることが出来なかった。
「A……」
「煉獄さん……」
「すまない」
そして、これからもきっとその約束を守ることが出来ない。
煉獄はAの手を取ると、そっと自分の身体から離した。
「君が今までどれだけの時間を犠牲にして俺を救おうとしてくれたのか……本当に申し訳ないと思う」
「煉獄さん…？」
「しかし、俺は自分の生き方を曲げることが出来ない。この先なにが起こるか分かっていても、君の気持ちを踏みにじることになっても、留まることは出来ない」
「煉獄さん……！」
一体どれだけの犠牲を支払ってきたのだろうか。
時間だけではない、存在も精神もすべてを賭けて覆そうとしてくれたことは想像できる。
煉獄の言葉にAの瞳が悲しみに濡れる。
そんな顔をさせたい訳ではないが、そんな顔をさせてまで煉獄は答えを出さなければならない。
すべて、彼女のために。
「俺は君を選べない」
「……っ」
「俺は現実に帰りたい」
煉獄はAの手を取ると、刀を握らせた。
ガタガタと震えるAの手を握り締めて「君なら帰り方を知っているんじゃないか」と真っ直ぐに見つめる。
「いやだ…いや……」
「俺は帰り方を知らない」
「うそ……そんなの嘘です」
「嘘じゃない！」
Aの肩がびくりと揺れる。
煉獄は手首を掴むと刀を自分の首に当てた。
「煉獄さん死んじゃうんですよ！？」
「構わない。それで全員が助かるなら、俺はそうする」
「なんで……なんで、そこまで……」
言っても聞かない人だと知っている。
だから、どんなに問いかけたところで答えは変わらないのだと分かっていて、それでも聞かざるを得ないのだ。
けれど、煉獄は微笑むだけで答えなかった。
煉獄が手を握る力を強める。
嫌だ嫌だと口に出すが、煉獄の力には敵わない。
肉を斬る感触が手のひらを走り、ぎゅっと目を瞑った。
＊＊＊
「……。」
目を覚ませば、隣ではAが眠っていた。
炭治郎らの姿はどこにもなく、既に列車全体は原型を留めないほど形を変えてしまっている。
「A」
名前を呼ぶが、当然返事はない。
髪を飾る簪がひどく懐かしく思えた。
「まだ、間に合うだろう。君の夢は、きっと叶う」
たとえ共に生きられなくとも、まだ鬼にはなっていない。
最後にそっと頭を撫で、煉獄は駆け出した。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - なかむらさん» コメントありがとうございます…！！途中まで鋼の意思で絶対にバレないようにしないと！と思っていたので、バレてなかったようで安心しました…！私もいつもなかむらさんの作品の余韻風呂に浸かっているので、今日はお返しができて良かったです！ (2021年4月20日 12時) (
レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - 完結おめでとうございます！途中、どうあがいても悲しい結末になってしまう気がして本当にはらはらしていたのですが、これ以上なく優しくて暖かなラストで…良い意味で裏切られました(笑) 本当に綺麗な物語だなぁと余韻に浸っています。今回もありがとうございました！ (2021年4月20日 0時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - かんみさん» コメントありがとうございます。書き終わるまで何度も悩み、試行錯誤した末の完結でしたので、温かいお言葉を頂けて本当に嬉しいです。他作まで触れてくださり、こちらこそありがとうございます…！！ (2021年4月19日 19時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - この度は完結おめでとうございます…！生存ifはこの上なく難しいにも関わらず本当に納得の、そして感動の小説でした。他作も大好きです。春の陽だまりのような気持ちで包まれます。素敵な作品を書き上げて下さり、ありがとうございました...！ (2021年4月19日 15時) (レス) id: 3c3b852a9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月ヶ瀬ましろ | 作成日時：2021年3月24日 20時
