煉獄杏寿郎 ページ4
「A……」
煉獄の頭は妙に冷静だった。
先ほどまで想い合っていた少女が死んだ訳ではない。
最初からそんな相手などいなくて、これは夢なのだと気付いたとき、二人を囲む景色は一変した。
赤く燃える地面がどこまでも続く。
この世界には、煉獄とAの二人だけがいた。
「君は、Aなのか」
煉獄はAにそう問いかける。
Aはうずくまったまま、小さく頷いた。
「……。」
それ以上、言葉にはできなかった。
目の前にいるAは煉獄が知っているAとは全然違う。
出会った頃の寂しそうな顔も、煉獄のことが好きだと言って笑った顔も、記憶の中にあるどれとも違う知らない存在。
けれど確かに彼女はあのAなのだと、それだけは事実として認識することができた。
「何が起こっているんだ……」
夢を見ているのだと自覚してから、煉獄は徐々に現実世界のことを思い出した。
任務として無限列車に乗り、そこで炭治郎らと合流し、話をしていたところまでは記憶がある。
その後の記憶がないということは、恐らくそこで眠ってしまったのだろうと推測できた。
「よもや、血鬼術か」
いくらなんでも任務中に寝てしまうような体たらくではないと自負している。
とすれば、恐らくこれは血鬼術の類であると結論付けることができる。
けれど、そうだとしてもこの場にAがいることに関しては何ひとつ思い当たる節がない。
それに、先ほどまで見ていた夢に関しても煉獄の記憶でありながらも、煉獄にとっては知らないはずの出来事だった。
確かに覚えはあるのに、経験はしていない。
自分が何故あんな記憶を持っているのか、理解ができなかった。
「ふむ……まったく分からん！」
しばらく考えた後、煉獄は顔を上げてそう言った。
Aは変わらず煉獄の前でうずくまっているが、煉獄は「A！なにか知っていることがあったら教えてくれ！」といつもと同じ様子で声をかけた。
その声にAの肩が揺れる。
ゆっくりと顔を上げたAの眼差しは淀んでいた。
「知っていること…？」
「あぁ！どんなことでも構わない！教えてくれ！」
真っ直ぐな目だった。
いま目の前で何が起きたのか、それが夢であったとしてもこの人は進んで行くのかと思った。
何度も立ち止まって、うずくまって泣き叫んで、どうしようもない現実から逃げて、過去に縋って後ろを向いている自分とは違う。
どんな時も先へ進もうとする、それが煉獄杏寿郎という男なのだ。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - なかむらさん» コメントありがとうございます…！！途中まで鋼の意思で絶対にバレないようにしないと！と思っていたので、バレてなかったようで安心しました…！私もいつもなかむらさんの作品の余韻風呂に浸かっているので、今日はお返しができて良かったです！ (2021年4月20日 12時) (
レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - 完結おめでとうございます！途中、どうあがいても悲しい結末になってしまう気がして本当にはらはらしていたのですが、これ以上なく優しくて暖かなラストで…良い意味で裏切られました(笑) 本当に綺麗な物語だなぁと余韻に浸っています。今回もありがとうございました！ (2021年4月20日 0時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - かんみさん» コメントありがとうございます。書き終わるまで何度も悩み、試行錯誤した末の完結でしたので、温かいお言葉を頂けて本当に嬉しいです。他作まで触れてくださり、こちらこそありがとうございます…！！ (2021年4月19日 19時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - この度は完結おめでとうございます…！生存ifはこの上なく難しいにも関わらず本当に納得の、そして感動の小説でした。他作も大好きです。春の陽だまりのような気持ちで包まれます。素敵な作品を書き上げて下さり、ありがとうございました...！ (2021年4月19日 15時) (レス) id: 3c3b852a9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月ヶ瀬ましろ | 作成日時：2021年3月24日 20時
