必勝 ページ23
それからしばらくの間、Aは蝶屋敷で療養した。
炭治郎らも任務の合間を縫って見舞いに来てくれた。
いつか、蝶屋敷で療養していた炭治郎らをAが見舞っていたときのように、沢山の手土産を手にいつも笑って。
煉獄の身に起きるはずだったことは伏せていたが、他の柱の面々が来てくれることもあった。
とは言っても本当にごく一部の人間だけで、いつの間にか煉獄とAが好い仲になっていたのだという好奇心が大半だったが。
それでも、変わらなかったはずの関係は少しずつ変わっていった。
Aが知る以上に容態が悪化していた耀哉も一度だけあまねの手を借りてやって来たことがあった。
彼はAの表情を見て「これで私も思い残すことはもうなくなったよ」と笑った。
それ以来、耀哉は床に臥せったままだった。
煉獄は毎日のように見舞いに来た。
たくさん話をする日もあったし、何も話さずただ手を握っているだけの日もあった。
互いの今後については、どうしてか触れられないまま時間だけが過ぎていった。
そうして、ひと月が過ぎた。
＊＊＊
「あれ？Aさん、髪を短くしたんですか？」
蝶屋敷から出て行くその日、庭にある大きな桜の木を見上げていたAに炭治郎がそう声を掛けた。
炭治郎が言った通り、Aの髪は煉獄と出会った頃と同じぐらいの長さで切り揃えられている。
「はい、もういいかなと思って」
毛先を指で梳かしながらAは笑う。
その様子は炭治郎が彼女と出会った頃とは違い、寂しそうでありながらも穏やかな目をしていた。
不安や恐れの香りも混じってはいるが、春の温かさによく似た陽だまりなような香りがする。
炭治郎は「とても似合っていると思います」と笑った。
「あ、この桜すごいですよね！カナヲが教えてくれたんですけど、必勝という名前が付けられているそうですよ」
「必勝……」
その言葉を聞いて、再びAは木を見上げる。
この桜を植えた人は願いを込めてそう名前を付けたのだろう。
Aは「素敵な名前ですね」と言う。
あれから沢山のことがあった。
それこそ、鬼殺隊の悲願であった鬼舞辻無惨の討伐が果たせたことは、誰にとっても勝利と言えることだっただろう。
けれど、それ以上に失われたものがある。
たった一つを叶えるために失われていったものの尊さは、決して同じ重さだとは言えない。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - なかむらさん» コメントありがとうございます…！！途中まで鋼の意思で絶対にバレないようにしないと！と思っていたので、バレてなかったようで安心しました…！私もいつもなかむらさんの作品の余韻風呂に浸かっているので、今日はお返しができて良かったです！ (2021年4月20日 12時) (
レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - 完結おめでとうございます！途中、どうあがいても悲しい結末になってしまう気がして本当にはらはらしていたのですが、これ以上なく優しくて暖かなラストで…良い意味で裏切られました(笑) 本当に綺麗な物語だなぁと余韻に浸っています。今回もありがとうございました！ (2021年4月20日 0時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - かんみさん» コメントありがとうございます。書き終わるまで何度も悩み、試行錯誤した末の完結でしたので、温かいお言葉を頂けて本当に嬉しいです。他作まで触れてくださり、こちらこそありがとうございます…！！ (2021年4月19日 19時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - この度は完結おめでとうございます…！生存ifはこの上なく難しいにも関わらず本当に納得の、そして感動の小説でした。他作も大好きです。春の陽だまりのような気持ちで包まれます。素敵な作品を書き上げて下さり、ありがとうございました...！ (2021年4月19日 15時) (レス) id: 3c3b852a9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月ヶ瀬ましろ | 作成日時：2021年3月24日 20時
