生きていること ページ21
それからしばらくして、アオイが呼んだしのぶがやって来た。
眠っていた間の話をしのぶは丁寧に教えてくれ、Aは完全に人間となったことで身体の痛みが簡単に消えなかったのだということを知った。
あのとき、命を賭けて煉獄を選んだことでAは死ぬはずだった。
命を代償に煉獄を助けたことは間違いではなかった。
その瞬間に煉獄が負った致命傷は回復し、死を免れることが出来たのだから。
本当ならあり得ないことだったが、極限まで鬼に近付いていたAの力の強さが功を奏したのだろう。
けれど、それでAが死ぬことを煉獄が許すはずがなかった。
すぐにAと同じ方法で彼女に力を返し、本来訪れるはずであった未来に戻すつもりだった。
Aと同じように自らの命を代償として。
「これは私の憶測ですが」
しのぶはそう前置きをすると、煉獄が支払った代償について説明をし始める。
それは人によっては命よりも大切で、またある人によっては命よりも大切ではないものなのだろう。
だからこそAは煉獄の顔を見上げたが、煉獄は笑っていた。
もう二度と剣を握れないとしても、炎柱を絶やすことになったとしても、あのとき咄嗟に選んだのがAだった。
ただ、それだけのことだった。
「さすがに潰れた目までは戻せなかったようですが、他は完治しています。Aさんはもうあと1ヶ月は療養して頂きたいところですね」
「そう…ですか……」
「あまり気にしないでくださいね。生きていることが最も重要であると、私は思いますよ」
しのぶはそう言うと読み上げていた記録帳を閉じる。
その顔は確かに気遣ってくれているのだとAにも分かるもので、それと同時に今までのことを思い返してAは俯いた。
「しのぶさんは……信じてくれているんですね」
どう言うべきか悩んだが、結局そこに落ち着いた。
普通なら何も知らないはずの人が自分の生い立ちであったり、煉獄の本当の未来であったり、とても信じられるものではないと思うが、しのぶは信じているようだった。
それがAには不思議で聞かずにはいられなかったのだ。
「そう…ですね……私は自分の感覚を信じていて、今のAさんが私の知るAさんとは全く違うからこそ、信じたのかもしれません。そうでないと、辻褄が合わないですし」
「え……？」
しのぶが困ったような顔をして笑った。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - なかむらさん» コメントありがとうございます…！！途中まで鋼の意思で絶対にバレないようにしないと！と思っていたので、バレてなかったようで安心しました…！私もいつもなかむらさんの作品の余韻風呂に浸かっているので、今日はお返しができて良かったです！ (2021年4月20日 12時) (
レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - 完結おめでとうございます！途中、どうあがいても悲しい結末になってしまう気がして本当にはらはらしていたのですが、これ以上なく優しくて暖かなラストで…良い意味で裏切られました(笑) 本当に綺麗な物語だなぁと余韻に浸っています。今回もありがとうございました！ (2021年4月20日 0時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - かんみさん» コメントありがとうございます。書き終わるまで何度も悩み、試行錯誤した末の完結でしたので、温かいお言葉を頂けて本当に嬉しいです。他作まで触れてくださり、こちらこそありがとうございます…！！ (2021年4月19日 19時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - この度は完結おめでとうございます…！生存ifはこの上なく難しいにも関わらず本当に納得の、そして感動の小説でした。他作も大好きです。春の陽だまりのような気持ちで包まれます。素敵な作品を書き上げて下さり、ありがとうございました...！ (2021年4月19日 15時) (レス) id: 3c3b852a9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月ヶ瀬ましろ | 作成日時：2021年3月24日 20時
