今なら ページ17
障子戸の外で、はらはらと雪が舞っている。
音すら響かない静寂の中で、落ちてはひとつになっていくそれをぼんやりと見つめていた。
いつも同じ時間に目を覚まし、真っ暗な室内で一人物思いに耽る。
襖の向こうから「失礼します」という声が聞こえて、顔を上げた。
「おはようございます、兄上」
「おはよう、千寿郎」
それは、いつもと変わらない朝だ。
あの夜から3ヶ月が経った。
＊＊＊
その日は、蝶屋敷でしのぶの検診を受けることになっていた。
早朝の屋敷周辺は、まだ誰の足跡も付けられていない一面の白が広がっており、踏みしめるたびに小さな締まった音がする。
煉獄は使い古された番傘片手に蝶屋敷までの道のりをゆっくり歩いた。
「お待ちしていましたよ」
蝶屋敷に到着すると、しのぶが出迎えてくれた。
普段は怪我人や療養中の隊士がいる蝶屋敷も、最近は人の入りが少なくなっている。
今は柱たちが一般隊士相手に稽古を行なっており、そちらの方に多くの人間が駆り出されていた。
しのぶは手慣れた様子で煉獄の診察に取り掛かる。
煉獄は黙ってそれを見下ろしていた。
「もうほとんど完治していますね。あれだけの重傷を負っていたことが嘘みたいです」
「あぁ、本当にそうだな」
「まぁ……普段から煉獄さんは回復が早かったですし」
そう言って、しのぶは口を閉ざした。
煉獄がはだけた着物を整える音だけが2人の間に響いて、すぐに消えてなくなる。
外に降り積もる雪でさえ、すぐには消えてなくならないのに。
しのぶは立ち上がると、棚から診察記録を取り出して煉獄の記録を書き記した。
流れるような速度で、しのぶは最後の記録を埋める。
「後悔していますか？」
何でもない世間話のように問いかけられたその問いは、しのぶがずっと聞きたかったことだった。
あれから3ヶ月が経って、煉獄はどう思っているのだろうかと気掛かりだったのだ。
「……どうだろうな」
そして、煉獄もまたその答えは明確に出せない状況にいる。
たった二文字の言葉が、簡単には断言できなかった。
「結局、どうすることが正解だったかなんて誰にも分からんだろう。もっと最善があったかもしれない、まだ良い方なのかもしれない、どちらも俺の本音だ」
「そうですか……」
「ただ、今ならAの気持ちが僅かではあるが……わかる、と言えるんだろうか」
命を賭けてもいいと思えるほど選びたかったもの、それが煉獄にもあった。
すべてが終わってから気が付いたことだったが。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - なかむらさん» コメントありがとうございます…！！途中まで鋼の意思で絶対にバレないようにしないと！と思っていたので、バレてなかったようで安心しました…！私もいつもなかむらさんの作品の余韻風呂に浸かっているので、今日はお返しができて良かったです！ (2021年4月20日 12時) (
レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - 完結おめでとうございます！途中、どうあがいても悲しい結末になってしまう気がして本当にはらはらしていたのですが、これ以上なく優しくて暖かなラストで…良い意味で裏切られました(笑) 本当に綺麗な物語だなぁと余韻に浸っています。今回もありがとうございました！ (2021年4月20日 0時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - かんみさん» コメントありがとうございます。書き終わるまで何度も悩み、試行錯誤した末の完結でしたので、温かいお言葉を頂けて本当に嬉しいです。他作まで触れてくださり、こちらこそありがとうございます…！！ (2021年4月19日 19時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - この度は完結おめでとうございます…！生存ifはこの上なく難しいにも関わらず本当に納得の、そして感動の小説でした。他作も大好きです。春の陽だまりのような気持ちで包まれます。素敵な作品を書き上げて下さり、ありがとうございました...！ (2021年4月19日 15時) (レス) id: 3c3b852a9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月ヶ瀬ましろ | 作成日時：2021年3月24日 20時
