黎明 ページ15
いつだったか、色恋に溺れて自分のような化け物を生み出した母親を馬鹿な人だと思ったことがあった。
決して、自分はあんな風にはならないと心に誓っていたし、なるわけがないと思っていた。
だって、それじゃあ不幸になるだけだもの。
私も、貴方も、周りのみんなが不幸になる。
誰かの心をそうまでして手に入れたいなんて、そんな代償を支払ってまで叶えたかったことなのだろうか。
私は一体、誰の何のために生まれてきたんだろうって、そう思った夜は確かにあった。
でも。
「A！」
多分、そういうことじゃない。
誰の何のためになんて、そんなものは生まれた時に決まっていたことなんかじゃない。
私が私として生きていくために選んだことは何一つ正解じゃなくて、間違いでもなくて。
今更、代償を支払うに足る何かに気付けたことが、最後の最期でお母さんの気持ちを理解してしまったことが、なんだか少しだけ悔しかった。
「絶対に死なせない…！」
煉獄がAの手を握ってそう叫ぶ。
その表情は、多分ずっと昔から知っているものなのだ。
いつかの自分と同じだから、今の煉獄の気持ちは痛いぐらいに分かる。
だから、一番最初の煉獄がどんな思いで死んでいったのかも何となく分かってしまった。
自惚れでなければだけれど。
ただ、これからもずっと笑って生きていて欲しい。
笑顔になんてなれない日があってもいいし、苦しいことがあることだって当然ある。
でも、生きていれば何度だって取り返せるだろうし、最後の最後にどんな決断を下したとしても、それが辿り着く未来ならそれでいい。
でなきゃ割に合わない。
Aだけではなく、多くの人を救ってきた人が未来を生きるのは、当然の権利だから。
だから、命を賭けていいと思った。
根底には、好きだからという理由しかないのだけれど。
次第に意識が遠くなる。
炭治郎が煉獄に何かを言っているようだけれど、それが何なのかはもう分からない。
「………。」
どうせ私は看取る側にしかなれないと思っていたけれど、看取られる側になる日が来るなんて。
それは、煉獄さんが生き延びたことの次に良かったことかもしれない。
そう思いながら、Aは目を閉じた。
その表情はどこまでも穏やかで、本当に幸せそうだった。
＿＿＿そうして、長い長い夜が明けた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 174人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - なかむらさん» コメントありがとうございます…！！途中まで鋼の意思で絶対にバレないようにしないと！と思っていたので、バレてなかったようで安心しました…！私もいつもなかむらさんの作品の余韻風呂に浸かっているので、今日はお返しができて良かったです！ (2021年4月20日 12時) (
レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - 完結おめでとうございます！途中、どうあがいても悲しい結末になってしまう気がして本当にはらはらしていたのですが、これ以上なく優しくて暖かなラストで…良い意味で裏切られました(笑) 本当に綺麗な物語だなぁと余韻に浸っています。今回もありがとうございました！ (2021年4月20日 0時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - かんみさん» コメントありがとうございます。書き終わるまで何度も悩み、試行錯誤した末の完結でしたので、温かいお言葉を頂けて本当に嬉しいです。他作まで触れてくださり、こちらこそありがとうございます…！！ (2021年4月19日 19時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - この度は完結おめでとうございます…！生存ifはこの上なく難しいにも関わらず本当に納得の、そして感動の小説でした。他作も大好きです。春の陽だまりのような気持ちで包まれます。素敵な作品を書き上げて下さり、ありがとうございました...！ (2021年4月19日 15時) (レス) id: 3c3b852a9c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：月ヶ瀬ましろ | 作成日時：2021年3月24日 20時
