願い ページ11
炭治郎はAに気が付くと、切羽詰まったような様子で「Aさん…！」と駆け寄ってきた。
炭治郎の顔色は悪く、とてもいい状態とは思えない。
けれど、炭治郎はAに肩を貸すように腕を回すと元来た道を戻り始めた。
「炭治郎くん…」
「俺、考えたんです。今いちばん必要なことは何かって。そしたら、きっと貴女を迎えに行くことが正解なんじゃないか……煉獄さんに貴女を会わせることが大事なんじゃないかって……そう思って……」
煉獄が猗窩座に立ち向かっていく前、煉獄がAのことを覚えていることに気が付いた。
今この状況下で猗窩座と戦えるのは、煉獄一人だけだということも十分理解している。
それでも、炭治郎はAを連れて行くべきだと思った。
この先どんな結果になったとしても、少しでも長く二人を一緒にいさせるべきだと思ったのだ。
「顔色、悪い…ですよ」
「すいません、なるべく急ぎます」
「いいです……もう、いいんです」
「よくないです。絶対に連れて行きますから」
炭治郎が頑なに身体から手を離さないことを自覚して、Aは押し黙った。
こんなにも大きな怪我を負っているのに、自分とは違って回復には時間がかかって、余計に悪化するかもしれないのに。
もう、その責任は取れないかもしれないのに。
Aは何も考えることが出来なかった。
ただ、普通に歩くよりもゆっくりと進んで行く景色をぼんやりと眺めながら口を開く。
「煉獄さん……怒ってるかな…」
「どうしてですか？」
「昔から、真っ直ぐな人だったから……私がこんな、こんなことして……こんなことをしてまで、煉獄さんだけを選んだこと……どう、思うのかなぁ」
ただ、煉獄に生きていて欲しいだけだった。
たった一度やり直したら、それできっと元に戻るのだと信じていた。
けれど一度では足りなくて、二度でも及ばなくて、次こそは、次こそは、そう思いながら願い続けて、それでも辿り着けなくて。
そうして、二度と戻れない場所まで来てしまった。
「嫌……だなぁ。煉獄さんに嫌われるのだけは、嫌だなぁ……」
軽蔑されるだろうか、もう二度と普通には話せないかもしれない。
そんな恐怖といつだって隣り合わせで、それでもいいと思うとした時もあったけれど。
結局、そんな覚悟は決まらなかった。
強欲で自分勝手な我儘だけれど、昔のように一緒に生きていく未来が欲しい。
そう、願ってもいいのだろうか。
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - なかむらさん» コメントありがとうございます…！！途中まで鋼の意思で絶対にバレないようにしないと！と思っていたので、バレてなかったようで安心しました…！私もいつもなかむらさんの作品の余韻風呂に浸かっているので、今日はお返しができて良かったです！ (2021年4月20日 12時) (
レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - 完結おめでとうございます！途中、どうあがいても悲しい結末になってしまう気がして本当にはらはらしていたのですが、これ以上なく優しくて暖かなラストで…良い意味で裏切られました(笑) 本当に綺麗な物語だなぁと余韻に浸っています。今回もありがとうございました！ (2021年4月20日 0時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - かんみさん» コメントありがとうございます。書き終わるまで何度も悩み、試行錯誤した末の完結でしたので、温かいお言葉を頂けて本当に嬉しいです。他作まで触れてくださり、こちらこそありがとうございます…！！ (2021年4月19日 19時) (レス) id: fbcf0daba9 (このIDを非表示/違反報告)
かんみ(プロフ) - この度は完結おめでとうございます…！生存ifはこの上なく難しいにも関わらず本当に納得の、そして感動の小説でした。他作も大好きです。春の陽だまりのような気持ちで包まれます。素敵な作品を書き上げて下さり、ありがとうございました...！ (2021年4月19日 15時) (レス) id: 3c3b852a9c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月ヶ瀬ましろ | 作成日時：2021年3月24日 20時
