冬の朝 ページ10
産屋敷邸の一室、Aのために充てがわれたその部屋の中で彼女は朝を迎える。
早朝とはいえ、まるで宵闇の中にいるかのように真っ暗な時間帯に彼女は目を覚ました。
起き抜けであっても、しっかりと意識を覚醒させたAは浴衣を脱ぎ、隊服に袖を通して身支度を整える。
どれだけの朝を迎えても変わらない。
Aはいつも同じ時間に目を覚まし、真っ暗な室内で一人物思いに耽る。
けれど、この日はいつもとは違い外に誰かがいるような気配を感じた。
障子戸を音を立てぬよう静かに開けて外を確認すると、庭園の前を煉獄が通りかかるところであった。
曲者の来訪ではないことを確認したAはそっと戸を閉めようとしたが、それよりも先に煉獄がAに気が付いた。
「おはよう!A!」
進行方向からぐるりと体の向きを変え、こちらへ歩いてくる姿を目にしたAは、障子戸を閉めることを諦めた。
煉獄が自分のもとまで歩いて来たところで「おはようございます」と挨拶を返す。
「君は早起きなんだな!感心感心!」
「煉獄さんこそ、お早いんですね」
「俺はお館様に火急の用があってな!先ほど用件を済ませた故、この後は朝稽古に勤しむ予定だ!」
「そうですか」
聞いていない情報まで提供してくれる煉獄に、Aは固い声で相槌を打つ。
適当に返していれば立ち去ってくれる相手ではないが、Aは冷たくあしらうことを選んだ。
しかし、やはり煉獄はそんな程度で堪える男ではなく、続けて「よければ君も参加しないか!」と誘ってきた。
「遠慮しておきます」
「何故だ!君は身体が弱いと聞く!鍛錬は身体を強くするぞ!」
「語弊があるようですが、弱いのではなく貧血持ちなだけです。どちらかというと身体は丈夫な方ですから」
「そうだったか!だが、共に稽古をしよう!朝から汗を流すのは気持ちがいいぞ!」
「いいです、私には構わずお帰りください」
言っても聞かない煉獄の性格はよく知っていた。
Aは諦めて障子戸を閉めようとするが、煉獄は「君は普段からつれないが、俺に対しては一層冷たくないか?」と言った。
その言葉にAの手は止まる。
「別にそんなことないと思いますが」
「そんなことはある!俺が何をしたのかは分からんが、気を悪くするようなことをしてしまっただろうか?」
「いえ…そんなこともありませんが……」
Aの言う通り、煉獄から不快になるようなことをされたことはなかった。
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2021年1月7日 15時