鬼と人間 ページ7
Aはいつだって忙しそうな女だった。
後藤は、彼女のことを柱の控えだと言い、その任務のほとんどは産屋敷邸の警護だなんて言っていたが、いつだってAには鬼の匂いが染み込んでいた。
いつだったか、善逸は「あの人の音も独特なんだよなぁ……やっぱり色々と大変な思いもしてるんだろうな」などと炭治郎に語った。
鬼殺隊の人間はみな、どこか哀しい匂いをまとっていて、炭治郎は常にその悲しみに触れていた。
それ故、どんな時も常に悲しみの中にあるような、絶望とも思える匂いをまとうAは、炭治郎にとってはほんの少しだけ不安を覚える人物でもあった。
「もう、出立されるんですね」
那田蜘蛛山での任務から暫くが経った頃、炭治郎らは次の任務である無限列車へと出立することになった。
荷物をまとめて準備をする炭治郎に、Aは声をかける。
丁度、禰豆子の入った木箱を背負うところだった。
「はい、沢山お見舞いに来てくださってありがとうございました!」
「いえ、ご武運を祈っています」
そう言って、Aは微笑む。
炭治郎にとってAはいい先輩だった。
後輩である自分たちの面倒をよく見てくれて、見舞いにだって頻繁に来てくれた。
だからこそ、こんなことを思うのは失礼だと思っている。
Aの言葉は、どこか無機質であまり心が込もっているように思えないと、そんなことを思うようになったのは、一体いつからだったか。
炭治郎は、微笑むAの顔を見つめる。
しのぶのそれとは違う、怒りをひた隠しにしていたしのぶよりもずっとAは得体が知れなかった。
意を決して炭治郎は口を開く。
「Aさんは……その、禰豆子のことをどう思っていますか?」
「禰豆子さんを、とは?一体どのような意味でしょうか?」
「禰豆子は人間を襲ったりしません…でも、今は鬼であるということに変わりはなくて……」
炭治郎の言葉を受けて、Aの顔からは表情が消えた。
まるで、氷のように冷たいその視線に炭治郎は肩を揺らす。
間違えてしまった、即座にそう思った。
「あの、すみません!今のは忘れて……」
「私は別に禰豆子さんのことを鬼だからどうなんて思ったりしませんよ」
「え……」
意外な答えに炭治郎は目を瞬く。
「だって……人間だって生き方次第で鬼にでも何にでもなり得るのですから」
そう言ったAは再び笑った。
貼り付けたようなその笑みは、やはり背筋が凍りそうなほど冷たいものだった。
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2021年1月7日 15時