夢限の氷針【煉獄杏寿郎】 (ページ49)

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主人公ページ49

「ったく、お前はよぉ～！！」
「す、すみませんでした…」

揺れる背中の上で炭治郎は何度目かの謝罪の言葉を口にしていた。
炭治郎を背負いながら走る後藤だけでなく、その後ろから禰豆子の入った箱を背負って走る隠の目からは、明らかな怒りの感情が見て取れる。
目元だけしか見えていない故か、その怒りはより増幅された状態で炭治郎の胸に刺さった。

その原因は言うまでもなく、先ほど炭治郎がかけられた柱合裁判にあった。
柱の存在を知らなかった炭治郎の無知故の行動であっても、柱の脅威を知る隠の2人にとっては到底許せるはずもなく、炭治郎を蝶屋敷へと送る道すがら、2人は執拗に炭治郎を責め続けた。

炭治郎は、何の落ち度もない隠2人に対しては申し訳ないと思いつつ、それでも最愛の妹である禰豆子が3度も刺された件に関しては許していなかった。
もしも、今後あの男と再会する機会があったとしたら、絶対に頭突きをすると心に固く誓う。

「あ～くそっ！柱チョーこえぇよ！」
「あの……そんなに怖いんですか？」
「これだから新人はよぉ！どう考えても怖ぇだろ！」

そう言われて炭治郎は先程の面々を思い返す。
確かに、曲者揃いというか個性際立つ顔触れであり、それに似合う堂々とした面持ちだったとは思う。
1人1人の顔を思い出しながら、ふと炭治郎は1人の顔を思い出して、息を呑んだ。

「あれ？俺………」

炭治郎の思い出した通り、あの場には柱と呼ばれる9人の隊士がいたのだが、もう1人屋敷の中に隊士がいたのだ。
炭治郎が柱の面々と顔を合わせるのは、これが初めてだ。
しかし、炭治郎は知っている。
あの座敷で静かに座っていたあの女性を、炭治郎は知っているのだ。

「あの人はA…Aさん……」
「お前知ってんの？氷柱様のAA様のこと」

炭治郎の言葉に後藤はそう答えた。
しかし、そんな後藤の言葉はもう炭治郎の耳には届いていなかった。
その代わり、炭治郎の脳裏に浮かぶのは逃れられない運命を嘆いて泣き叫ぶAの姿だった。

「無限列車…煉獄さん……」

炭治郎の瞳に涙が滲む。
あの夜の出来事が一気に頭の中に流れ込んできた。
どれだけ力を欲しようとも簡単には手に入らないこと。
どれだけ悲しくとも、前を向いて歩いて行かなければならないこと。
そして、自分たちを守って散っていった男のこと。

そうだ、あの人は煉獄さんを救おうとして、それで。
深く底のない悲しみが広がるようなAの表情を思い出して、炭治郎は拳を握った。