がんじがらめの糸 ページ47
そうして、運命の夜が訪れる。
Aはいつもと同じように少しでも戦いが長引くように煉獄の邪魔立てをするが、結局またいつも通り煉獄を怒らせるだけだった。
すぐに意識を取り戻して、炭治郎らの状況を確認するが、大して時間稼ぎが出来ているようでもなかった。
そして、その後もいつも通りだ。
森の奥にいるあの男の元へと向かう。
「……猗窩座」
何度も見てきた背中がそこにあった。
男は振り返ると、初めて目にする女に眉を顰める。
お前は誰だ、そう問う代わりに拳を振り上げた。
Aは知っている。
猗窩座がどのような攻撃を繰り出すのか。
どのようにすれば避けられるのか。
そして、猗窩座が何故か女には本気で向かってくることはないということも。
Aは全力で戦うが、その刃が猗窩座に届くこともない。
全部、知っている。
何度も何度も見てきた光景だからだ。
やがて、猗窩座は致命傷手前の攻撃をAにぶつける。
それを食らったら最後だ、Aにはもう成す術がない。
これで、少しでも時間を稼げたなら。
そう願いながらAはその場に倒れる。
何度も繰り返してきた。
何度も何度も、ただ煉獄が生きている未来が欲しいがために。
そんな我欲のために。
けれど、繰り返せば繰り返すほどにAは自分と煉獄の心が、離れていくような気がした。
Aは煉獄のことを沢山知っているが、煉獄はAのことを忘れてしまう。
繰り返せば繰り返すほどに、その溝は深くなって、絡まり合った糸は解けなくなっていく。
生きて朝を迎えてくれさえすれば良かった。
ただ生きていてさえいてくれたら、また想い合えるはずだった。
しかし、たとえ奇跡が起こって煉獄がこの夜を生き延びたところで、もうあの頃には戻れない。
Aと煉獄の関係はあの頃とは違う。
今は、ただの他人同士だ。
Aだけが煉獄を想っていて、煉獄はAのことなど何とも思っていない。
Aと煉獄が生きている時間は、全然違う。
立ち去る猗窩座の背中を見つめる視界が霞む。
身体に致命傷を負っていなくても、心はずっと前から致命傷を追い続けている。
死ぬかどうかの瀬戸際で、その心を強く保つことがどれほど難しいのか、それを知るものはどれ程いるのだろうか。
「……っ………うっ……」
傷口が痛んで意識が朦朧とする。
Aはもう、結末を見届ける気が起きなかった。
どうせ今回も駄目なのだと分かっていた。
そして、視界は真っ暗になった。
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2021年1月7日 15時