夢限の氷針【煉獄杏寿郎】 (ページ45)

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噂話ページ45

「近頃、A様の体調が優れないらしいぞ」

そんな話を耳にしたのは、後藤が隊士を背負って走る最中のことだった。
隣では同じように隠の一人が隊士を背負っていて、両者は背負われながら会話をしているという状況だった。
後藤ももう一人の隠も横入りすることはなかったが、隊士である二人よりも今の状況を理解していた。

鬼殺隊では最近、十人目の柱が誕生した。
とはいえ、それは柱に足る資格を持つというだけで、正式な柱という訳ではない。
今後、不足の事態が起きた際に柱としてすぐに活動が開始できるように、という意味合いでのことだった。
それが、氷柱であるAAだ。

しかし、そんな彼女は近頃日中に顔を見せることが、とんと無くなってしまった。
元々、産屋敷家の血筋を引く彼女は身体が強い方ではなかったらしいが、厳しい鬼殺の任務に上手く適応できなかったのか、日中は部屋にこもって療養しているらしい。
産屋敷家とより密接に関わっている隠は、実際にあまねが慌ただしくAの部屋を出入りする様子も見ている。

しかし、夜になれば鬼殺の任務に参加しているので、そこまで深刻な事態でもないのだろう。
そう後藤は思っていたが、近頃は任務中も顔色が悪いように見えることもあり、隊内でも噂になってしまっているようだ。

人の口に戸を立てることは出来ない。
そのため、たかが隊士の一人と言えども極めて異例な出自と実績を持つ彼女が噂の的となるのは、ある程度仕方のないことなのだろう。

「俺もこの前、氷柱様との任務があってよ……なんだか、やつれちまったっつーか、生気を感じなかったんだよなぁ。元々あんま親しみやすい人でもなかったけど」
「あぁ、他の柱と比べるとな……他にも怖い人はいるけど、あそこまでいっちまうと幽霊じみてるっつーか、別の意味で怖いよな」

背負った隊士の会話を黙って聞いていた。
後藤自身も、隠としてAと関わることがあるが、彼らと似たような印象を抱いていた。
人との関わりを断絶しているようであるし、必要以上にこちらから声を掛けることもしなかった。
そのとっつきにくさは鬼殺隊随一だと思っている。
風柱でさえ、もう少しこちらに歩み寄ってくれるというのに。

しかし、そのような文句は絶対に口に出さない。
それこそ人の口に戸など立てられないのだから、いつどこで誰から本人に伝わってしまうのかなんて分からないだろう。