運命 ページ43
それから、Aは今までの記憶を頼りに鬼殺隊の一員として活動した。
Aが鬼殺隊のために出来ることはたった一つだ。
本来なら重症を追うはずの隊士を助けること、それが結果的には鬼殺隊の戦力を守ることに繋がる。
出来ることなら死者を出さないようにしたいところだが、それが出来るなら最初からAは膨大な時間を掛けて煉獄を救う道を探したりなんてしない。
つまるところ、死者は救えない。
人間には最初から決められた寿命がある。
繰り返しなんて、それを分かった上での愚行でしかない。
それこそ、常人には理解しがたい時間をかけて何度も繰り返し続けているAには、数々の鬼との戦闘記憶がある。
たとえ、異能を持つ鬼と会い見えたところで、血鬼術を見破ることもその対処法もAには分かっている。
人は、それを最強と呼ぶのだろう。
しかしそれは、決して生まれつきのものではないし、Aは過去に何度も多大な代償を払い続けている。
それは、身体的な負傷であったかもしれない。
それは、精神的な摩耗であったかもしれない。
どちらにせよ、Aは万能なんかではない。
「万能に生まれていたら、煉獄さんのことも簡単に助けることができたのかな……」
その日も、Aは任務を終えてどっと疲れた身体を布団の上に沈めた。
耀哉は決してAに無理を言うことはなかったが、Aは耀哉に何を言われなくとも勝手に任務へ赴くこともあった。
それしか、Aが恩を与えてくれた耀哉に対して出来ることがないのだ。
元々、剣技の才もなかった。
むしろ、煉獄が殉職するまでは真剣を握ったこともなかったぐらいだ。
煉獄を助けたい、ただその一心で剣を握った。
どれだけ才能がなかったとしても、何度も繰り返している内に自然と経験値は上がっていき、周りから怪しまれない程度には鬼殺が出来るようになった。
それでも、まだまだ足りないのだが。
ごろん、と寝返りをうって目を閉じる。
Aが死ぬはずの人間を助けられないことと同じく、人の寿命を縮めることもできない。
それは、煉獄に斬りかかったときに分かったことだ。
もしもあのとき、煉獄を斬ることが出来たなら、Aは希望を持ってまた繰り返すことが出来たかもしれない。
それでも、斬ることは出来なかった。
Aにそんなことが出来るはずがなかった。
気持ちの面でも、運命という意味でもそれは出来ないのだ。
そうしてAは、深い眠りに落ちて行った。
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2021年1月7日 15時