箱庭の中の幸せな世界 ページ40
煉獄邸と言えば、夢と現実を勘違いしてしまったことも良くなかった。
「はぁ……何やってんだか、ほんと」
思い描いていた願望が強すぎたのかもしれない。
煉獄に生きていて欲しいと思う気持ちが強すぎて、また昔のように煉獄と共に過ごしたいと願う気持ちが強すぎて、そんな夢を見せたのだと思った。
しかし、あれは現実だった。
煉獄の面倒見の良さはAに対してだけではない。
が、更に煉獄は「好いてない訳があるか!」と口にした。
その真意は分からない。
ただ一つ確かなことは、時間を戻して過去を無かったことにしている時点で、その時の記憶はA以外の人間には残っていないということ。
煉獄とAが共に過ごした時間は、もうこの世のどこにも無いということ。
だから、今の煉獄がAのことを好きだと思うような出来事はどこにもなかった。
あれは、煉獄なりの社交辞令だったのだろう。
Aは、そう自分を納得させた。
ともかく、あの一件は時間を少しだけ遡らせることで事なきを得たが、もう二度とあのような失態をする訳にはいかない。
無闇矢鱈に自分が持っている力を使うわけにはいかない。
今一度、前回のことを思い出しながら今回はどう進むべきかを考えた。
「……。」
けれど、もう何をどうすればいいのか分からなかった。
Aは既に相当な回数遡っている。
百を超えた辺りから数えるのをやめてしまったが、それも随分と昔の話だ。
何度もやり直しては、煉獄が生きて朝を迎える方法を探し続けている。
だが、見つからない。
どれだけ頑張っても、煉獄はあの夜に死ぬ運命だ。
運命とは、そういうものなのだ。
ふと、そんな考えが頭を過ぎる度に、Aは今まで自分がしてきたことは無駄だったのではないかと考える。
それもそうだ、何百回も繰り返したところで煉獄は死ぬ。
惜しいところまで行ったこともなく、必ず彼は死んでしまう。
それが彼の運命なのだと言ってしまえば、それまでだ。
それでも、Aは諦めたくなかった。
否、それはもはや執着に近いのだろう。
今はただ、煉獄を死なせないことがAのすべてだ。
むしろ、繰り返し続ければ煉獄は生きているのだ。
同じ時間、同じ場所、何の変わり映えもしないその世界の中でなら煉獄は生きている。
「……ははっ」
乾いた笑いが口から溢れた。
繰り返し続ければ、煉獄と一緒にいられる。
たとえそれが、自分を__に変えてしまうことだとしても。
Aの心は、とっくの昔に折れていた。
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2021年1月7日 15時