夢限の氷針【煉獄杏寿郎】 (ページ39)

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再構築ページ39

耀哉と話し終えたAは、部屋へと向かった。
使い慣れた部屋と言えども、そこに自身の使用感などはない。
それは当たり前の話ではあるが、それとは別にAはいつもここに置く私物は、最低限に留めていた。

それこそ、片手で足りるような私物の中にそれはあった。
年代物であるが故に、今は経年劣化してしまってはいるが、比較的綺麗なまま保管されている。
それは、煉獄家が代々受け継いできた炎柱の羽織だ。
ここではないずっと遠い場所で、Aが煉獄の形見として手にしたものだった。

本当なら、同じ時間に二つも存在しないそれを持ち歩くことは避けたかった。
ともすれば、自分の正体が周りに知られかねないからだ。
それでもAは、この羽織を手放すことが出来なかった。
煉獄との思い出の品は、この羽織と身に付けている簪しかなかったからだ。

Aは羽織をぎゅっと抱きしめる。
そこから香っていたはずの太陽のような温かさは、とっくの昔に消えてしまった。
喉の奥がきゅっと痛くなる。
ついさっき見たばかりの光景が脳裏に蘇る。
何度見ても慣れることはない。
息を引き取った煉獄の姿、覆せない運命。

「煉獄さん………」

寂しくて恋しくて涙がこぼれ落ちる。
しかし、泣き叫んだところで運命が変わる訳ではない。
立ち止まってしまったら、そこから前に進むことなど出来やしない。
それが分かっているから、道なき道でも進み続ける。
たとえ辿り着く先に行き止まりしかなくとも、いつかはその先に行けるのだと信じて。

Aは羽織を衣紋掛けに掛けて、真っ暗な室内の真ん中で正座した。
前回は、しのぶに鬼ではないかと疑われたことが大きな出来事だった。
それと、煉獄邸の前で倒れてしまったことも想定外だった。
しのぶに関しては、稀にあぁいったことが起こるため、避けようのない出来事のひとつなのだろうと思う。
毎度、納得がしてもらえる訳ではないが、和解できた試しがない。

Aは自分としのぶの間には切れない縁があるのだと思って諦めていた。
それこそ、しのぶと良好な関係が築けたのは随分と昔が最後だったはずだ。

煉獄邸の一件に関しては、あの日あの時間に外出することをやめ、出会った少女とのやり取りを無かったことにするしかない。
少女に対しては申し訳なさもあるが、Aにとっては素性もわからない少女よりも煉獄の方が大事だ。

孤独という点で自分と少女を重ねた部分もあるが、こればっかりは仕方のないことだと納得させた。