仮説 ページ31
Aは緊張も動揺もしなかった。
しのぶが何を言い出すのかは分かっていたからだ。
「仮説ですか。一体それはどのような」
「貴女が鬼である、という仮説です」
いつだって笑顔を絶やさなかったはずのしのぶは、少しも笑っていなかった。
Aもしのぶと同じように笑みなど浮かべず「何故そう思うんですか?」と問いかける。
「考えてみれば単純な話だったんです。貴女が私の屋敷に近寄りたがらないのは、検査をされるとまずい理由があったからで……何より、貴女は太陽を避けている節がある。何故か日中でも行動は出来るようですが、太陽を克服しつつある状態なのかと」
「それはまた突飛な発想ですね」
「私もそう思います。ですが、竈門くんのお話で確信しました」
「竈門くんのお話ですか」
それに関してはAにも分からない話だったため、Aは首を傾げた。
「彼は、貴女からはいつだって鬼の匂いがすると言っていた。でも、貴女はお館様の護衛であるはず。何故そのような匂いがするんでしょう?」
「私だって任務に赴くことはありますよ」
Aの言う通りだ。
産屋敷邸の護衛が仕事であっても、状況次第で任務に向かうことだって少なくはない。
けれど、しのぶは真っ直ぐにAを見つめて話を続けた。
「極め付けは最近になって貴女が私の屋敷に頻繁に出入りしていることです。しかも、私を避けてまでして。その目的は、鬼でありながらも稀有な状態にある禰豆子さんなのでは?」
「……ほとんど、確定のような言い方ですね」
「貴女の目的は何ですか」
そう言って、しのぶは刀に手をかけた。
けれどAは、小さく息を吐き出して「私たちが争っても何にもなりませんよ」と言う。
「私は貴女に対して嫌悪感を抱いています。鬼に対して抱くものと同じなんです」
「そうですか……それを判断材料として出されるのは、少しだけ胸が痛みますね」
「目的を教えてください」
しのぶがAを睨みつける。
それでも、Aは口を割ろうとは思わなかった。
その行動の意味をよく知っているからだ。
「胡蝶さん、貴女は勘違いをしています」
「なにが勘違いなんでしょう?」
「まず、私は鬼ではないということ。そして、私の目的は鬼殺隊の害になるものではないということです」
Aがそう言っても、しのぶは刀から手を離すことはなかった。
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2021年1月7日 15時