夢限の氷針【煉獄杏寿郎】 (ページ24)

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憎しみではなくページ24

座り込むAの前に、煉獄は跪いた。

「君の強さについて噂は聞いていたが、どうやら過大評価だったようだな！」
「まぁ……そうなってしまいますよね」
「よく鍛錬されているとは思うが、今まで君が率いた隊士の負傷率が低かったのは、単に運が良かったということだろう！それもまた実力だ！」
「運……」

煉獄の言う通り、Aは決して強いという訳ではなかった。
それは直接本人と刃を交えない限り、誰にも分からないことであったが、彼女が強いから負傷者が少ない訳ではない。
負傷者が少なかったから、強いとされていただけの話だった。

煉獄の言葉に顔を曇らせるAだったが、煉獄はそんな彼女の様子を気にも留めなかった。
それよりも先に確認したいことがあったのだ。

「さて、君はなぜ俺を殺そうとした！」
「……。」
「何かを試そうとしていたようだが、だんまりでは分からんぞ！」

Aは浅い呼吸を繰り返す。
本当なら、会話をすることさえ辛いほどに脇腹が痛かった。
しかし、何度も深呼吸をして脇腹を押さえる。
そして、大きく息を吐き出すと煉獄の肩を掴んで畳の上へ押し倒した。
その動きはとても負傷しているとは思えない速さであり、煉獄も油断をしていた。
馬乗りになったAは、刃を煉獄の首に当てる。
ひやりとした刀の冷たさが、煉獄の首筋に走った。

「一本取られてしまったな」
「これだけの状況になっても煉獄さんは冷静なんですね。恐れ入るべきか、舐められていることを怒るべきか…」
「そうだな！ここから形勢逆転させるのも造作もない！」
「そこは嘘でも『降参だ！』と言って欲しかったんですけどね」

そう言ってAは自嘲気味に笑った。
しかし、刃は煉獄の首から離れることはない。

「俺が憎いのか？」
「……いいえ、そういう感情ではないです」
「では、どういう感情だ」

煉獄の問いにAの瞳が揺れた。
その表情は苦悶に満ちているように見えて、煉獄は「君は何がしたいんだ」と言った。

「やっぱり…無理なんですね」
「何がだ」

その問いには答えなかった。
その代わりにAは煉獄の首から刀を引き離すと、あろうことか大きく振りかぶった。

「氷の呼吸、奥義……」
「っ！？」

まさか、型を使ってまでして本気で殺しにかかってくるとは思わなかった。
煉獄は咄嗟にAを突き飛ばそうとしたが、間に合わない。
Aの瞳から涙がこぼれて、煉獄の頬に雫が落ちた。

「敲氷求火(こうひょうきゅうか)」

そして、煉獄の視界は真っ暗になった。