選択 ページ19
少女が言うに、今までは仲良くしていた友人が、突然自分を仲間外れにするようになった、とのこと。
その理由も、思い当たる節がないとのことだった。
肩を揺らしながら涙を流す少女に対して、Aは溜息をこぼすと、羽織の袖口で頬を拭ってやった。
少女は目を丸くして驚いていたが、Aは黙ったまま袖口をぐりぐりと押し付ける。
やがて涙は羽織に染み込んで、少女の顔は元の通りに綺麗なものになった。
「辛いよね……」
やっとの思いで口に出せたのは、そんな何の捻りもない一言だった。
Aは少女の頭をそっと撫で、視線を合わせる。
「ひとりは…寂しいよね」
そう、自嘲気味に笑った。
一人で生きていくことは出来るが、だからといって寂しくないという訳ではない。
他愛のない話をする相手がいることは幸せであるし、嬉しさや悲しみを分かち合える相手がいるということは、特別なことでもある。
それを当たり前のように享受している人は多いだろう。
しかし、当たり前を当たり前として生きていける人は、当たり前を特別として生きていく人よりも、ずっと幸せなのだとAは思っている。
人の尺度など、とても測れるものでもないだろうが。
Aはしばらくの間、少女の頭を撫でていたが、やがて懐から小さな飴玉を取り出して、少女に手渡した。
「これは…?」
「あげる。私は食べないから」
「ありがとう……優しいおねぇちゃん」
両手で小さな飴玉ひとつを嬉しそうに掲げる少女は、その表情をふにゃりと綻ばせた。
こんなにも無邪気な笑顔を浮かべたのは、いつが最後だっただろうか、と思った。
「何もしてあげられなくて、ごめんね」
「ううん、少しだけ元気が出たよ」
「そう、これからも元気でね」
Aがそう言うと、少女は手を振って帰って行った。
もう二度と会う機会はないだろうが、Aは少女の背が見えなくなるまで、その背中を見つめていた。
何かひとつ、あの少女のために出来ることがあったのなら。
それだけでも、何かを変えることが出来たのだろうか。
何かひとつ選択をするたびに、選ばなかった方の先にある答えが何なのかを考える。
答えの出ない問いかけは、永遠という時間をかけても答えを教えてはくれない。
Aは番傘を持ち直すと、少女が消えて行った方向とは反対側に向かって歩き始めた。
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2021年1月7日 15時