散歩 ページ18
半年に一度の柱合会議が近付いていた。
それに向けて、Aは近頃の隊内に関する伝達事項やら、柱たちから集めた報告書などの整理をする。
障子戸の隙間からは、眩しいほどの光が差し込んでいた。
「………。」
たまには、日中であっても外に出ておくべきか、と思った。
決して、以前煉獄にそう助言されたからではない。
誰に言い訳をするわけでもないが、Aは立ち上がると薄い浅葱色の羽織を羽織って、番傘を手に産屋敷邸を後にした。
昔から、太陽の光が苦手だった。
眩しいのもそうだし、ずっと見ていると頭がクラクラしてくるのである。
だからこそ、氷柱の名に相応しいかの如く、冬という季節は得意な方で、逆に夏は不得手な季節だった。
ただ、好き嫌いで言えばAは夏が好きだった。
手には入らない、自分からは縁遠いものを好む傾向があったのだろう。
番傘片手に屋敷の周辺を散歩する。
本来であれば、隠が産屋敷邸の所在地を有耶無耶にする目的で、複雑な順路を担いで連れ回すことが一般的だ。
けれど、そもそもAは産屋敷邸の住人であるし、基本的には産屋敷邸を警護する任に就いている。
長年、たとえ柱であっても誰一人自分の警護として側に置くことがなかった耀哉が、唯一側に置いておくことを選んだ隊士がAだった。
それについて訝しげな顔をする者もいたが、耀哉が決めたことに反発する者はいなかった。
屋敷からしばらく歩いた所で、Aはふと足を止めた。
道端で小さな少女が1人、顔を俯かせていた。
「どうしたの」
Aは少し迷ったが、放って置くことも出来ず、声をかけた。
にこりともしない、能面のような表情で見下ろすAに、少女は肩を強張らせる。
仕方なく、Aは曖昧な笑顔を浮かべて「何か困っているの?」と尋ねた。
「………。」
「お母さんと迷子?それとも、なにか失くしたの?」
「お友達が……私と、遊んでくれなくて………」
Aが目線の高さを合わせるように屈むと、少女はようやく口を開いた。
よく顔を見てみると、瞳には涙をいっぱいに溜めており、今にも泣き出しそうな顔をしている。
今ここで泣かれると、間違いなく自分が犯人になると思ったAは「お友達と喧嘩でもしたの?」と続きを促した。
「そうじゃないの…なんでか分からないけど、突然仲間はずれになって……ひとりぼっちになっちゃったの」
少女はそう言うと、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2021年1月7日 15時