気遣い ページ15
「はぁ………」
産屋敷邸に到着すると同時に、Aは布団の上になだれ込んだ。
鬼の出没時刻を考えると、鬼殺隊の隊士たちの活動時間は必然的に昼夜逆転状態となる。
ようやく身体が休められるというのに、空は明るくなりつつあった。
先程の鬼が使っていた血鬼術の影響で、眼球が痛い。
見えるはずのものを見えないように操作されていたということは、その影響も大きな負担となって現れる。
Aは目を閉じて、眼球の神経に集中した。
「…っ…………はぁ」
自分で思っていたよりも疲弊していた。
それもそうだ。
他の隊士たちには何もさせず、おおよそ一人でカタを付けてしまったのだ。
その代償が襲いかかってこない訳がなかった。
しかも、よりによって眼球だ。
神経が多く集まり、尚かつ繊細な眼球ともなれば元に戻すまでに時間を要する。
今日はこのまま寝てしまおう。
そう思いながら意識を手放そうとしたところで、廊下から誰かがやって来る気配がした。
「A」
襖は閉じられたままだったが、その声は誰のものなのかすぐに分かった。
Aは身体を起こして襖を開けようとする。
が、声の主である耀哉は「そのままでいいよ」と告げた。
「ごめんね、疲れているだろうに」
「いえ、お気遣い痛み入ります」
耀哉はAの部屋に入ると、申し訳なさそうに笑った。
昔から、Aは耀哉のこのような表情を見るたびに何とも言えない気持ちになる。
その気持ちを誤魔化すように視線を逸らした。
「今晩もお疲れ様。怪我はなかったかい?」
「ご覧の通り大丈夫です」
「それはよかった」
今夜のことは既に耀哉の耳に入っていることだった。
耀哉は視線を腕に向けるが、それ以上のことは言及しない。
Aはそっと腕を隠した。
「Aのお陰で慎二は助かった。他の剣士たちも怪我ひとつ負うことなく帰還できた。本当にありがとう」
慎二とは、Aが右方向から鬼が襲いかかってくると教えた隊士のことだ。
あの助言がなければ、彼は重傷を負っていた。
本人も、周りにいた他の隊士も、そのようなことになるとは夢にも思っていなかっただろうが。
「Aが来てくれてから、負傷者が随分と減ったよ」
「ですが、死者に関しては…」
「それでも、君は十分にやってくれている。君としては色々と思う部分があるだろうけど、君の働きは確かに鬼殺を支えているよ」
耀哉の気遣いに、Aは少しだけ表情を弛めた。
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作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2021年1月7日 15時