夢限の氷針【煉獄杏寿郎】 (ページ12)

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氷の呼吸ページ12

鎹鴉により任務を伝達された隊士たちは、人々が寝静まった民家へと訪れていた。
いくつもの建屋が立ち並ぶ中に、ひときわ不気味な雰囲気を漂わせる廃屋がある。
それが、今回の鬼が潜んでいるとされている場所だった。

「では、あなた方は建屋の入り口前に控えていてください。万が一、取り逃がした場合は対応よろしくお願い致します」
「はい！」

Aは数人の隊士に待機命令を出し、残りの隊士を連れて廃屋の中へと足を踏み入れた。
時間が時間なだけに、廃屋の中は真っ暗だ。
それでも、迷うことなく足を進めるAに隊士の1人が「躊躇いがないですね…」と声をかける。

「Aさんは怖くはないんですか？」
「そうですね、特に怖いとは思いませんが」
「すごいなぁ……僕は未だに怖いですよ」
「こればっかりは慣れるしかないと思いますよ」

淡々とした口調ではあるが、聞かれたことに対してはきちんと答える人だった。
Aに続いて進んで行く隊士たちは緊張した面持ちであるが、Aだけは平然としている。
慣れてしまうほどに戦い続けた者の背中は、他の隊士たちにとって何よりも頼りになるものだ。

「それにしても真っ暗ですね…何も見えない」
「足元気を付けて下さいね、段差があるので」
「うわっ…ほんとだ」

よく認識できたなぁ、と隊士は思った。
氷の呼吸の使い手とだけあって、その横顔は涼しげであるというよりも冷たい印象を受けるが、今みたいに親切なところもある。
以前、誰かが「つらら様」なんて呼んだという噂を聞いたこともあるが、確かにまぁその表情の冷淡さはそう見えなくもなかった。
が、きちんと関わってみれば感情が表に出にくいだけで、決して冷たい人間だという訳ではないということが分かる。

それが、行動を共にした隊士たちの中での彼女の印象だった。

「止まって下さい」

奥へと進めていた足を止め、Aは隊士たちの前に片腕を出した。
その目線は、相変わらず伺い知れない奥へと向けられており、真っ暗な闇の中には鬼の気配があった。
Aは瞬きする暇すら与えず、即座に刀を抜いて「氷の呼吸、壱ノ型・氷塵」と攻撃に入った。

彼女が持つ日輪刀は、まるで氷で出来ているかのように無色透明な刃を持っている。
その刀で斬りつけられた鬼は、切断面が凍ることで傷の再生が遅らされ、追撃の隙を与えてしまう。
故に、氷の呼吸は鬼の再生力を激減できるという特徴を持っていた。