眩しい人 ページ11
そもそも、Aと煉獄は同じ鬼殺隊という共通点はあっても、それ以上の交流はない。
好ましく思うような理由もなければ、その反対の理由もないのだ。
爛々とした誠実さの塊のような男を見下ろす。
Aは小さく息を吐くと「大丈夫ですから、本当に」と念を押した。
「そうか!なら、やはり朝稽古を…」
「それでは、私はこれで」
未だ不服そうな煉獄を残して、Aは今度こそ本当に障子戸を閉め切った。
一人になったAは深くため息をつく。
「君は日中は部屋に篭りがちなのだと聞いた!たまには太陽の下で体を動かすと、より健康になれるぞ!」
障子戸を閉めても尚、煉獄はそう声を掛けてきた。
Aが「分かりましたから!」と半ば叫ぶように言うと、煉獄の「元気だな!」という見当違いな返事が返ってきた。
ようやく障子戸の向こうから、煉獄が立ち去る気配があった。
ゆらゆらと遠くなっていくその影をじっと見つめ、Aは背中を向ける。
煉獄は昔からAを気にかけていた。
弟がいるからなのか、歳下であるAのことを弟を構うかのように、気にしていたのだろう。
Aは他の隊士とは違うが故に、関わりもほとんどなかった。
それは、他の隊士もは異なる出自がそうしていたのだろうし、Aが他の隊士との関わりを避けていたこともあるのだろう。
それでも、煉獄だけは他の隊士らにするのと同じように、Aに声をかけ続けていた。
それが、彼の人柄だったのだろう。
「……。」
ぼんやりと虚空を見つめるAの瞳は曇っていた。
答えの出ない問いかけと向き合い、そしてまたAは深いため息を吐く。
しばらくの間、そうしていたら廊下側から誰かがやって来る気配を感じた。
「お館様がお呼びです」
産屋敷家の跡継ぎである輝利哉の声だ。
Aは「すぐに伺います」と告げると、そっと立ち上がった。
もう一度、障子戸の方を振り返って、先程の煉獄の顔を思い出す。
誰にでも分け隔てなく、平等に温かな笑顔を向けることが出来る煉獄が眩しく、そしてAは羨ましいと思った。
それは、煉獄が無限列車への任務へと赴く約1年前の冬の日の朝のことだった。
137人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:月ヶ瀬ましろ | 作成日時:2021年1月7日 15時